仙台国際音楽コンクール

Column&Review

第28回:クラシックソムリエが案内する Road to 仙台国際音楽コンクール

音楽的な刺激たっぷり! マスタークラスを聴くおもしろさ

クラシックソムリエ 高坂 はる香

 今回の仙台国際音楽コンクールにも、審査委員として世界中からすばらしい演奏家、教育者が参加します。審査の空き日には、そんな審査委員の先生方によるマスタークラスが開催されます。世界的音楽家の指導を受けられる機会とあって、地元宮城はもちろん、日本全国の音楽学生が受講生として参加します。

 

◇音楽が言葉で語られる貴重な機会

 

 マスタークラスは、一般のみなさんも聴講することができます。「知らない人がレッスンを受けているところを見学するなんて、そんなにおもしろいのかな?」とお思いの方もいるかもしれません。しかしこのマスタークラスの聴講というのが、実は、ひとつの演奏会を聴くのと同じくらいか、ある意味ではそれ以上に発見が多いものなのです。

 その理由はまず、一流の演奏家が、作品への考えや解釈のアイデア、求めている音について“言葉”で語ってくれるということ。

 普段のコンサートでは、演奏家たちはそうしたことを音で伝えようとするわけですが、レッスンでは生徒に理解させるため、言葉で説明してくれます。それをコッソリ(?)脇で聞いてしまうことができるチャンスなのです。先生によっては、言葉で説明したあと実際に音を出してくれることも。

 音を聴くだけですべてを感じられたら理想的ですが、少しヒントが与えられると、同じ演奏から受け取れるものごとが格段に増えるというのも事実です。マスタークラスの聴講は、音楽を聴く上での視点を増やす貴重な機会といえるでしょう。

 もうひとつ興味深いのは、ときに、音楽に向かう姿勢についての深い言葉が語られること。

 初対面の先生と生徒がコンタクトをとる中で、作品や楽器に向かう考え方を確かめ合うシーンが見られることもあります。これまで多くのマスタークラスを見てきましたが、こうした対話の中で、長い演奏家人生を歩んできた先生ならではの含蓄のある言葉を耳にすることがたくさんありました。

 限られた時間ながら生徒に何かを得てほしいという気持ちが、先生たちにこうした言葉を語らせるのかもしれません。

 

◇演奏家同士のアイデアの交換

 

 レッスンの進め方は講師によってさまざまですが、よく見かけるのは「どうしてそう弾くのか」、「どんなイメージでこの作品を捉えているのか」など、先生が生徒に自分の考えを語らせようとするシーン。

 多くの先生は出てきたアイデアを否定することなく、他の考え方も提案し、そこから演奏家同士のアイデア交換を進めようとします。これは見ていてとても興味深いものです(ちなみに、日本の受講生はおとなしい方が多いですが、海外の受講生の場合、先生との間でバトルを繰り広げることもまれにあり、それはそれでおもしろいです)。

 技術的なアドバイスによって、レッスンの最初と最後で音が大きく変化することもあります。若い演奏家の音がちょっとしたきっかけで変わる、その瞬間を目撃することになるでしょう。

 

◇講師と受講曲の組み合わせにも注目!

 

 コンサートを聴きに行く際、「この人がこの曲を取り上げるならおもしろそう」と思うことがありますが、マスタークラスにも充分その要素があります。担当講師が得意とするレパートリーが受講曲となっているレッスンほど興味深いものはありません。

 例えばヴァイオリン部門でいえば、ソリストとして活躍し続けるフランスの大御所レジス・パスキエ氏の無伴奏ヴァイオリン作品や協奏曲のレッスンは、興味深いものとなるでしょう。また、一流オーケストラのコンサートマスターを長らく務めたロドニー・フレンド氏が協奏曲を指導するレッスンなど、ソリストとして、オーケストラの一員としてという、多様な視点からのアドバイスが聞けそうです。

 ピアノ部門で注目したいのは、やはり、1980年ショパン国際ピアノコンクールの覇者ダン・タイ ソン氏による、ショパン作品のレッスン。2015年の同コンクールに門下から3人の入賞者を出した指導の秘密も垣間見られるかもしれません。サンソン・フランソワ唯一の弟子で、パリ国立高等音楽院名誉教授のブルーノ・リグット氏による、ショパン、スクリャービンのレッスンも見ものです。

 

 コンクールの審査に関連付けて考えてみると、マスタークラスの聴講は、今回の審査委員の一部がどんな音楽を求めているのかを知る機会ともいえるでしょう。1000円(学生は500円)の聴講料で丸一日聴くことができる気軽さも魅力。

 この機会に、世界レベルのレッスンを覗いてみてはいかがでしょう。