仙台国際音楽コンクール

Column&Review

第27回:クラシックソムリエが案内する Road to 仙台国際音楽コンクール

課題曲、ここを聴け!(4)ピアノ部門ファイナル

クラシックソムリエ 高坂 はる香

 ヴァイオリン部門と同様、ピアノ部門も今回からファイナルで2曲の協奏曲を演奏することになります。

 これまでの回では、出場者は2曲の協奏曲を選んで準備しておき、ファイナル進出が決まってから指定された1曲のみを演奏することになっていました。しかし、協奏曲が課題の中心となるコンクールという特色を強く打ち出そうという考えから、今回からは、2曲とも演奏することになったそうです。若い演奏家にとってさらに協奏曲の演奏機会が増え、また聴衆にとっては、ピアニストが準備していた協奏曲を両方聴くことができるという、嬉しい内容となりました。

 演奏曲は、ふたつのグループに分けられた指定曲リストから、1曲ずつ選ぶことになります。

 

◇ひとつめの課題:感性と技術が露わになるモーツァルト

 

 ファイナルひとつめの課題曲リストは、モーツァルトのピアノ協奏曲。第15番~第19番という、モーツァルトが1784年にウィーンで書いた5作品から選択します。

 セミファイナルでベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番、第4番という、演奏家の基礎能力が露わになる課題を切り抜け、ファイナルに無事たどりついた出場者たちですが、ここで再び、音楽家の本質が丸見えになる課題に挑まねばなりません!

 モーツァルトの作品は、音数が多くなく音型もシンプルなため、雑だったりミスが多かったりするととても目立ちます。そして、この自然でシンプルな音楽の中に込められたさまざまな感情がしっかり表現されていないと、とにかくつまらない演奏になってしまいます。特に協奏曲の場合、ソリストの魅力によってオーケストラの演奏も変化しますから、かなりシビアに違いが見えてくるでしょう。

 シンプルで美しい音楽にのせてピアニストの感性と技術がはっきり表れる、とても興味深い課題曲です。

 

◇ふたつめの課題:キャラクターの大きく違う作品群から選ぶ

 

 ふたつめの課題曲リストは、ロマン派~近代の16の協奏曲。その選択肢は、ベートーヴェンの「皇帝」から、ショパンやブラームス、ラフマニノフやプロコフィエフ、そしてバルトークなど、とにかく多彩です。

 例えば単純に演奏時間だけを見ても、ブラームスのピアノ協奏曲(約50分)と、リストのピアノ協奏曲やラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」(約20分)では、倍以上の違いがあります。

 また、例えばロマン派のショパンが二十歳頃に書いたピアノ協奏曲と、近代のバルトークが死の年に書いたピアノ協奏曲第3番では、作品のキャラクターや、求められる技術と表現力が、まったく異なります。

 最近は、技巧的に難しくドラマティックなラフマニノフのピアノ協奏曲や、鮮烈な印象を与えられるプロコフィエフのピアノ協奏曲などのロシアものに人気が集まる傾向があります。しかし同時に、例えばドイツで学んだピアニストが、解釈に自信のあるシューマンやブラームスなどで挑むというパターンもよく見られます。

 本番までに限られたリハーサル時間しか与えられないため、単純に自分が弾いてみたい作品を選ぶというわけにいかないという現状もあります。とくに若いピアニストの場合は、演奏経験のある作品や、師事する先生のアドバイスをもとに、自身のキャラクターに合った作品から選択することが多いようです。

 

 普通に音楽を聴いていると、どうしても派手で難しそうな作品のほうに「すごい演奏だった」という印象を抱きがちです。しかしコンクールの審査委員の先生方は、これらまったくキャラクターの異なる作品を聴き比べる中で、表現力や正しい様式感の理解、カリスマ性といったピアニストの本質を見極めているわけです。豊富な知識と的確な判断力が求められるお仕事ですね。

 さて、今回のファイナルでは一体どんな作品が演奏され、また何を弾いたピアニストが頂点に輝くのでしょうか。