仙台国際音楽コンクール

Column&Review

第26回:クラシックソムリエが案内する Road to 仙台国際音楽コンクール

課題曲、ここを聴け!(3)ピアノ部門予選・セミファイナル

クラシックソムリエ 高坂 はる香

 世の中にはさまざまな国際音楽コンクールがありますが、やはり今、世界で一番多く開催されているのは、ピアノのコンクールです。

 オーケストラやアンサンブルでの仕事も多いその他の楽器に比べ、ピアノはソリストとしての活動の割合が高い楽器。それもあって、ソリストとしての腕前や魅力を見極めることのできるコンクールというものが多く存在するのでしょう。

 各ピアノコンクールにはそれぞれの掲げるコンセプトがあり、入賞者の傾向にも違いが見られます。それに大きな影響を与えているのが、課題曲です。仙台国際音楽コンクールは協奏曲が課題の中心のため、成熟した演奏家が評価される傾向にあると言われるのは、とくにわかりやすい例です。

 

◇自由なだけにセンスが露わになる、ソロによる予選

 

 さて、ピアノ部門の課題曲について見ていきましょう。演奏家のさまざまな側面が見られる課題が設けられているのは、先に[ヴァイオリン部門、予選・セミファイナル]の記事でご紹介したのと同様。

 一方、ヴァイオリン部門が予選からオーケストラとの共演を課題としているのに対し、ピアノ部門では、予選はまずソロだけを弾く課題となっています。コンクール開始当初は、ピアノ部門も予選から室内楽を含む課題となっていましたが、やはりピアノの場合はソロをじっくり見極めるステージが必要と、第4回から予選はソロのみとなりました。

 

 予選の課題は、40分の演奏時間のうち、J.S.バッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、メンデルスゾーン、ショパン、シューマン、ブラームスから10分以上演奏。その他は好きに選んでいいということで、かなりの自由度があります。

 出場者はその中で、自分のいろいろな能力を見せられるプログラムを選びます。たとえば規定作曲家からバッハやハイドンを選んだ人は、他に超絶技巧やロマンティックな表現力を披露できる、ロマン派以降の華やかな作品を選ぶかもしれません。開かれた感性の持ち主であることを示すため、聴いたことのないような現代作品を演奏する人もいるかも。

 これはすなわち、選曲のセンスがもろに表れるということ。無数にレパートリーの存在するピアニストにとって、実はそうしたプログラムづくりの感性はとても重要ですから、予選はそんな部分も試される唯一のステージといえるでしょう。

 

◇ごまかしのきかないベートーヴェンで、音楽の構築力や表現力をみる

 

 そして、セミファイナルからは、いよいよ仙台国際音楽コンクールならではの、協奏曲が聴けるステージ。ドイツ古典派の作曲家ベートーヴェンの5曲のピアノ協奏曲のうち、成熟度が増した第3番、第4番のどちらか1曲を演奏するという課題は、世界のコンクールのなかでもかなりユニークです。

 この課題曲からは、派手さでごまかされることのない、音楽の構成力、表現力、オーケストラとの対話力をしっかり見ることができます。悲劇的ながら力強い第3番ハ短調と、優美な強さを持つ第4番ト長調という、性格の違う2作品から出場者がどちらを選ぶのかも興味深いところ。

 すばらしい演奏者によるベートーヴェンを聴いていると、それはただひたすらに自然な美しさとエネルギーを持つ音楽に聴こえます。しかし実際には、彼が書き記した意外性に満ちた細かな指示をしっかり読み込んで演奏することなしには、そのような“真に優れた音楽”にはなりえません。楽譜を丁寧に読み、解釈する能力も試されるステージです。

 

 セミファイナルに進出するのは、予選の約40名から3分の1以下に絞られた、たったの12名。最初の狭き門をくぐり抜けた出場者たちが、それぞれに抱くどんなベートーヴェン像を見せてくれるのか、楽しみです。