仙台国際音楽コンクール

Column&Review

第25回:クラシックソムリエが案内する Road to 仙台国際音楽コンクール

課題曲、ここを聴け!(2)ヴァイオリン部門ファイナル

クラシックソムリエ 片桐 卓也

◇ファイナルでは2曲の協奏曲を演奏することに

 

 第6回を迎える仙台国際音楽コンクール。そのヴァイオリン部門で大きく変わったのは、ファイナルで協奏曲を2曲演奏することになった点だろう。第1〜3回ではファイナル用に2曲の協奏曲を準備し、それから1曲が指定されるというシステムだった。第4回、第5回では、それぞれベートーヴェン、ブラームスというヴァイオリニストにとって必ず演奏しなければいけない歴史的な名作が1曲だけ課題曲とされ、ファイナルでは全員がそれを演奏した。第6回のファイナルの課題曲は、まずメンデルスゾーンを全員が演奏し、それから4曲の中から1曲を選んで演奏するという形になった。ひとり2曲の協奏曲を演奏する訳だ。

 これはファイナルでの演奏を担当するオーケストラにとってもかなり負担が大きくなることだが、この仙台国際音楽コンクールを第1回目から支えて来た仙台フィルハーモニー管弦楽団の協力によって、それが可能となった。

 

◇歴史的な名曲の並ぶ課題曲

 

 さて、第6回のファイナルの課題曲を見てみよう。ロマン派時代の名曲というだけでなく、ヴァイオリン協奏曲の中で最も親しまれているとも言えるメンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲 ホ短調」は全員が演奏する。次いで、4曲の候補曲から1曲選択することになるのだが、そこにはストラヴィンスキー、プロコフィエフの第1番と第2番、ショスタコーヴィチの第2番という近現代のロシア出身の作曲家の作品が並んでいる。

 その意図をいろいろと想像してみた。メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲は、名曲というだけでなく、演奏会で取り上げられる頻度も高い作品だ。メロディは知っているという方も多いだろう。ヴァイオリニストにとっては、小さな頃から挑戦する機会も多く、10代のはじめでこの曲を弾きこなす人もいるだろう。今回のコンクール出場者の多くは演奏したことがあるのではないだろうか? ただし、簡単な作品ではない。第1楽章は華麗なメロディで有名だが、そのメロディは意外に跳躍が多く、音程を正確に取ることが難しいと言われる。メンデルスゾーンのこの第1楽章の最初の部分を聴くだけで、正確な音程を取るテクニックを持っているかどうかが分かる、とさえ言われることも。第2楽章では叙情的な、第3楽章では活発な演奏が求められる。それぞれの楽章の性格の違いをどう描き分けるのかも難しい。そして、以前から弾いているという「慣れ」の感覚を捨てて、もう一度、最初から楽譜に向き合い、この作品の隅々の音符を検証して、そこから自分の演奏を作り出して欲しいという意図もあるかもしれない。

 

◇自分の音楽のパレットに色彩を増やすために

 

 次いで、4曲のロシア物。これらは、ベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブラームス、チャイコフスキーといった王道の協奏曲とは違い、演奏する機会も少ないかもしれないけれど、ヴァイオリニストが自分のレパートリーを広げる時に手に入れておきたい個性的な協奏曲である。自分の音楽的な幅を広げる、画家で言うならパレットの色彩を増やすために取り組む、そんな作品だと思う。

 プロコフィエフの第1番と第2番は、同じ作曲家の作品でありながら、作曲された時期がかなり違うので、その作品の印象も違う。第2番のほうがやや保守的で聴きやすいと言われる。ストラヴィンスキーのヴァイオリン協奏曲は、作曲家が新古典主義という文化の潮流の中で書いた作品で、バロック音楽の構成の中に、活き活きとした音楽が登場してくる。ショスタコーヴィチの第2番は作曲家が亡くなる10年ほど前、1967年の作品で、名手オイストラフの還暦記念のために書いた協奏曲だ。晩年のショスタコーヴィチの作品は難解なものが多いけれども、この協奏曲第2番も過去の回想、自分の作品の懐古などが複雑に組み合わされたもの。この作品を噛み砕くためには、本当に音楽家としての知性が要求されるだろう。

 筆者の個人的な予想だけれど、この4曲では、プロコフィエフ第2番〜ストラヴィンスキー〜プロコフィエフ第1番〜ショスタコーヴィチ第2番、という順番で人気(?)となるのではないだろうか?
 ファイナルを待ちたいと思う。