仙台国際音楽コンクール

Column&Review

第21回:クラシックソムリエが案内する Road to 仙台国際音楽コンクール

審査委員の顔ぶれ、ここがすごい(2)ピアノ部門

クラシックソムリエ 高坂 はる香

◇世界的ピアニスト、教育者ばかりの豪華な顔ぶれ

 前回はヴァイオリン部門の審査委員がいかにすごいかをご紹介しましたが、ピアノ部門も錚々たる顔ぶれです! 続くこの回では、ピアノ部門の審査委員がどんな方々なのかをご紹介します。

 まず、今回も審査委員団を率いるのは、第1回から変わらず審査委員長を務める野島稔さん。1960年代にモスクワに留学し、第1回ショパン国際ピアノコンクールの覇者として知られるピアニスト、教育者のレフ・オボーリンに師事。1969年にはヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで第2位に輝き、国際的な活動をスタートさせました。現在は東京音楽大学の学長を務め、教育者としても日本のピアノ界を牽引する存在です。

 そして審査副委員長、一人目は植田克己さん。1977年パリのロン・ティボー国際音楽コンクールピアノ部門で第2位に入賞し、東京藝術大学の教授として指導もされています。先に行われた浜松国際ピアノコンクールでも副審査委員長を務めており、日本のピアノ教育の中枢を担いつつ、数々の登竜門で審査にあたっています。

 同じく審査副委員長を務めるのは、名ピアニストであり、モスクワ音楽院教授でもあるエリソ・ヴィルサラーゼさん。ヨーロッパを中心に精力的な演奏活動を続けているのに加え、ロシアン・ピア二ズムを継承し、後世に伝える教育者でもあります。世界のコンクールで、彼女の優秀な弟子に遭遇しないことはありません。しかもその弟子たちは実に個性豊か。自由な音楽性を尊重する彼女の教育スタイルが窺えます。

 

 また、前回第5回から審査委員を務めるダン・タイ ソンさんは、かの有名な“ポゴレリッチ事件”の起きた1980年のショパンコンクール(イーヴォ・ポゴレリッチの評価を巡って、アルゲリッチなど複数の審査員が帰国してしまった回)で、アジア人として初めて優勝に輝き、以来第一線で活躍し続けるピアニストです。ベトナム戦争中に幼少期を過ごし、防空壕の中、紙鍵盤で練習をしていたというエピソードも知られています。先のショパン国際ピアノコンクールでも審査委員を務め、さらには6人の入賞者のうち、弟子が3人入賞を果たすなど、教育者としても重要な存在です。

 

 その他、ポーランドのエヴァ・ポブウォツカさん、フランスのブルーノ・リグットさんはじめ、教育者として、現役の演奏家として活躍する審査委員が顔を揃えています。仙台国際音楽コンクールならではの、聴衆や共演者とつながる魅力を備えた、成熟したピアニストを見出す審査が期待できそうです。

 

◇審査委員に求められる“見識と経験”

 

 しばしばコンクールの審査基準について、ミスは“減点”になるのかという話題を目にすることがあります。これまで数々の大きな国際コンクールで審査委員の方々にインタビューを重ねた中で感じているのは、「小さなミスタッチを気にしている人は誰もいない」ということ。もちろん、根本的な技術不足を露呈するミスは評価を下げるでしょうが、審査委員たちはそんなことより、ピアニストの本質的な才能を見極めようとしているようです。

 

 加えてもう一つ言えることは、私たち一般の音楽ファンは、その演奏が好みか否かでシンプルに“評価”を下し、チケットを買ってコンサートに行くかを決断することが許されますが、審査委員はそうはいかないのだということ。自分の好みについては客観的な視点を持ち、あらゆる種類の才能を評価することを意識している先生が多いようです。それだけに、審査委員には“見識と経験”が求められ、仙台国際音楽コンクールでも、そんな資質を備えた審査委員が名を連ねているのです。