仙台国際音楽コンクール

Column&Review

第19回:クラシックソムリエが案内する Road to 仙台国際音楽コンクール

コンクール出場者を支える(3)ピアノとピアノ調律師

クラシックソムリエ 高坂 はる香

◇制限時間内でコンクールのパートナーを選ぶ

 前回はヴァイオリン部門の楽器についてご紹介しましたが、続くこの回ではピアノ部門で出場者のパートナーとなる、ピアノという楽器についてご紹介しましょう。

 自分の楽器を持ち運ぶことができるヴァイオリニストと違い、コンクールに限らずコンサートでも、普通、ピアニストは会場に用意された楽器を使って演奏しなくてはなりません。限られたリハーサル時間の中でいかに楽器を手懐け、良い音を引き出すかも、プロの演奏家にとって大切な能力のひとつです。

 コンクールの場合はまた状況が特殊です。多くの国際コンクールで、出場者は最初のラウンドの始まる前に、主催者が用意した数メーカーのピアノから1台を選定します(まれに、1メーカーのピアノのみで行うコンクールもあります)。

 仙台国際音楽コンクールピアノ部門でも、たとえば前回、出場者は、ヤマハ、カワイ、スタインウェイ、ベーゼンドルファーの中から15分の持ち時間で自分に合うピアノを選定しました。音質はもちろん、音量や弾きやすさ、ペダルの感触など、さまざまな視点から楽器をセレクトします。用意しているレパートリーに合った音や鍵盤の感触を考慮する場合も多いようです。コンチェルトではオーケストラの中で映える豊かな音が求められるため、先に進んだ場合まで視野に入れて選ばなくてはいけません。とはいえ、仙台国際音楽コンクールのように、ステージごとに使用ピアノを変更することが認められている場合は、その時のレパートリーに合った楽器に変更しながらステージを進めていく出場者もいます。

◇コンクールの調律で求められること

 そんなコンクールのピアノ部門を支えるとても重要な存在が、ピアノメーカーと調律技術者。とくに大きなコンクールにむけては、各メーカー時間をかけてピアノを用意することもあります。

 例えば、今年10月にワルシャワで行われていたショパン国際ピアノコンクールでは、各メーカー、ショパンの演奏に適したピアノを長時間かけて準備していたようです。とくにヤマハやカワイなどの日本のメーカーは楽器を早めにヨーロッパに持ち込んで空気にならすなど、長きにわたる特別な調整を行っていたといいます。コンクールでひとりでも多くのピアニストから選ばれ、また良い結果を残す助けとなるような楽器を提供できるよう、各メーカー、大きな努力をしています。コンクール開幕後は、空き時間を数社で割り振って調律を行うので、作業時間が真夜中となることも普通。大変な仕事です。

 調律するうえで気にかけられることも、コンクールの場合は普通のコンサートと少し違います。充分な調律の時間がないまま次々異なるピアニストが演奏するため、単に良い音がするというだけでなく、音が変化しにくい耐久性や、さまざまなレパートリーへの適応能力も求められるわけです(逆に、弾く人が少ないピアノをたまたま選ぶと、演奏順のタイミングによっては自分の好みに合わせてじっくり調整してもらえることもあります)。

 ピアノコンクールでは、同じピアノを異なるピアニストが続けて演奏するので、奏者による音の違いに驚くことも多いでしょう。同時に、同じ会場で違うピアノを続けて聴き比べることができる貴重な機会でもあります。その繊細な音の違いに、ぜひ耳を傾けてみてください。