仙台国際音楽コンクール

Column&Review

第18回:クラシックソムリエが案内する Road to 仙台国際音楽コンクール

コンクール出場者を支える(2)ヴァイオリンの音色は多彩。それを聴くのもコンクールの楽しさ

クラシックソムリエ 片桐 卓也

◇ひとつひとつの個性が違うヴァイオリン

 仙台国際音楽コンクールにはピアノ部門とヴァイオリン部門があるが、2つの部門の、見た目でもすぐ分かる大きな違いはなんだろうか?もちろん、それは楽器である。そして、ピアノ部門の場合、コンクールで演奏するピアノは主催者側が用意するものの中から出場者が選ぶというシステム。一方でヴァイオリン部門は出場者が自分で楽器を持参する。当たり前のようだが、その意味するところはとても重要で、深いと思う。

 ヴァイオリンという楽器を習った経験がある方ならご存知だろうが、ヴァイオリンを始めた小さな頃に使うのは「分数楽器」と言って、通常の大人用のヴァイオリンの1/2、3/4などのこじんまりしたサイズのものだ。そして次第に大人の演奏家が使う普通のサイズの楽器まで、大きさを変えて行く。それは身体の成長に合わせてということもあるのだが、顎のしたにはさみ、左手で支えながら指板を押さえ、右手に弓を持って演奏するというヴァイオリンの演奏スタイルは、かなり個人差が大きい。自分の身体にフィットするかどうかは、ヴァイオリン選びの大きな要素なのだ。そこで、大きさを変えて行くのである。

 では、コンクールに出場する時にはどんなヴァイオリンを使うのだろうか?ヴァイオリンはひとつひとつの楽器の音色、響きが違う。それは楽器店に行って、何挺が試し弾きをさせてもらえば分かることだ。そして、自分に合うヴァイオリンを探すことになる。それは一種の出会いと同じで、ヴァイオリニストが自分の気に入る楽器に出会うことは少ないと言われる。

 さらに、ヴァイオリンには新聞などで話題になるような超高級楽器も存在している。アントニオ・ストラディヴァリが製作したストラディヴァリウスなどは数億円、あるいはそれ以上の値段が付くこともある。ストラディヴァリウスだけでなく、アマティ、グァルネリなどの古いイタリアの楽器はいずれも目が飛び出るほど高額だ。

 そして、それ以降の楽器でも、ポスト・ストラディヴァリウスと呼ばれるような存在のヴァイオリンがある。18世紀から19世紀にかけて活躍したイタリアのプレッセンダ、フランスではヴィヨームなどがその代表格。ストラディヴァリウスよりは安価ということもあり、近年は人気があるらしい。ヴィヨームはヒラリー・ハーンが使っていたこともあって話題となった。

◇歴史的銘器か、それとも普段使っている楽器か

 さて、そうした歴史的なヴァイオリンをコンクールで使うことはあるのだろうか?

 普段は自分の楽器を使っているけれど、コンクールの時には楽器商、財団などが所有する銘器を借りて出場するという出場者もいるだろう。しかし、それだけでコンクールの上位に入賞出来る訳ではない。まず、借りた楽器に慣れるまでの時間が必要で、それを自分のものとして弾きこなすにはかなりの努力がいる。また、音色としては素晴らしくても、それ以外のテクニックの部分、音楽性まで楽器が助けてくれる訳でもない。そういう点で、まず普段から使い慣れている自分のヴァイオリンで、しっかり音楽を作っていくほうが、コンクールの中では落ち着いて演奏出来るのではないかと思う。もちろん、大きな会場に響きわたる銘器の音色というものも魅力的ではあるのだが。

 ヴァイオリンの楽器としての値段は千差万別。同じ製作者の楽器でもずいぶん値段が違うこともある。大事なのは、値段ではなく、その楽器の音色、そしてそこから作り出す音楽が自分にとって気持ちよいものかどうか、なのではないだろうか。