仙台国際音楽コンクール

Column&Review

第16回:クラシックソムリエが案内する Road to 仙台国際音楽コンクール

世界の中の仙台国際音楽コンクール(3)眠る、食べる、練習する……滞在環境あれこれ

クラシックソムリエ 高坂 はる香

◇食事は体の資本です

 コンクール出場者たちは、最高のコンディションを維持しながら、長ければ数週間にわたって知らない街に滞在しなくてはなりません。その生活環境はとても大切です。

 ここでは世界のコンクールの例を挙げながら、出場者が期間中どんな環境に身を置いているのかを見ていきましょう。

 出場者にとって理想的なのは、思う存分練習でき、食事に不自由することなく、部屋に戻れば充分な休息をとることができる環境。加えて、人との交流やその土地ならではの食を楽しむことは、緊張が続く日々のちょっとした息抜きになるでしょう。

 仙台国際音楽コンクールでは、出場者はホテルに滞在し、練習室使用時間も規定に従って全員に用意されます。滞在先周辺には多くの飲食店があるので、食事面での苦労もあまりないようです。記者会見で気に入った日本食について尋ねられ、嬉しそうに「ギュウタン!」と答える海外からの出場者の姿をよく見かけますね。

 そんな食事事情も、コンクールによってそれぞれ。例えばロシアのあるコンクールでは、出場者に近隣の音楽院の食堂の食券が支給されていました。そんな中、コンクールの終盤にある出場者と「帰国したら何が食べたいか」という話になりました。あれもこれもと、出るわ出るわ! なんでも、食券支給はありがたかったが、毎日メニューが驚くほどまったく同じで、数週間経つうち“食べたいものリスト”が膨大になってしまったとのこと。

 言葉が通じない街で学生食堂が利用できるのは、海外からの出場者にとってとても助かったでしょう。それでも、慣れない食文化の中ストレスをためずにコンディションを保つのは、なかなか大変なようです。

◇ライバルとルームシェア!?

 出場中からホームステイ制をとっているコンクールでは、ホストファミリーが朝晩と食事を共にするケースもあり、これが孤独な戦いを続ける出場者にとって大きな支えとなります。両者のマッチング作業は重要で、食事の好みやアレルギーの有無、ペットがいても大丈夫か、小さな子供がいても良いか、喫煙習慣の有無などに応じて、事前に調整が行われます。

 それでも実際滞在してみなければ何があるかわからないもの。アメリカのあるコンクールでは出場者が、ステイ先の大型犬が早朝から吠えてゆっくり睡眠がとれず、ホストファミリーに相談したところ、翌日、寝室用に最新式の“ノイズキャンセリングスピーカー”(ヘッドフォンにあるように、騒音の逆相となる音を出して打ち消すというもの)を買ってきてくれたそうです。犬の自由はそのままに音だけをどうにかしようとする発想にも驚きますが、なんとか快適に過ごしてもらおうという心遣いの結果ですね。ただ、スピーカーの効果のほどはよくわからなかったようです。

 海沿いの街で開かれるあるピアノコンクールでは、出場者に、ビーチが目と鼻の先にある素敵なホテルが用意されていました。しかしこれが、2人で1部屋をシェアするというシステム(1人部屋を希望する場合は別料金)。いわばライバルと寝起きをともにすることになります。練習室も充分ないため、各部屋にアップライトピアノが置かれ、練習室がとれなかったときはこれを使います。幸い(?)目の前が美しいビーチということで「ルームメイトが練習している間はビーチに座っていた」なんていう出場者もいました。

 これだけ聞くと過酷な環境に思えますが、いつも一人ぼっちのはずのコンクールがおかげで楽しく、良い友人ができたという声も聞きました。同世代の演奏家仲間ができるということも、コンクールの良さです。

 このように、コンクールによって出場者の置かれる環境はさまざま。大変な状況を経験することでプロの演奏家としてより強くなれる面もあるかもしれませんが、やはり音楽に集中できることが一番です。

 前回、ボランティアさん事情についての記事で、“仙台国際音楽コンクールのあたたかいホスピタリティは若手演奏家の間で有名”と紹介しました。実際、コンクールに出場した若者の多くが口にするのは、「余計なことを気にすることなく、音楽に集中できた」というもの。理想的な環境といえるでしょう。

 仙台国際音楽コンクールでは、充実した組織とスタッフや市民のおもてなし精神、仙台の美食と豊かな自然とともに、次回も多くの出場者を迎えます。