仙台国際音楽コンクール

Column&Review

第15回:クラシックソムリエが案内する Road to 仙台国際音楽コンクール

世界の中の仙台国際音楽コンクール(2)世界のコンクールのボランティアさん事情

クラシックソムリエ 高坂 はる香

◇ところ変わればタイプも変わる、世界のボランティアさん

 みなさんが仙台国際音楽コンクールの会場で見かける、エントランスでのチケットもぎり、会場内の案内や誘導をおこなうスタッフは、その多くが市民ボランティアの方々です。

 こうした「会場運営サポート」の他にも、交流サロンの運営や通訳などをする「出場者サポート」、ブログや広報紙『コンチェルト』で情報発信をする「広報宣伝サポート」、コンクール出場後も滞在を希望する人を受け入れる「ホームステイ受入れ」などの各部門で、多くの市民ボランティアがコンクールを支えています。 >仙台国際音楽コンクールボランティアの活動内容

 現在、世界のほとんどの音楽コンクールが、こうしたボランティアの存在のおかげで成り立っています。

 世界の例を見てみましょう。市民ボランティアの支えで繁栄したコンクールとして知られているものに、アメリカ、テキサス州でおこなわれているヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールがあります。コンクールに関わるボランティアの数は、1200人。会場の運営、プログラムの作成、レセプションやパーティーの運営、ステージでの譜めくり、ギフトショップの販売員はもちろん商品の企画デザイン、さらには緊急対応する医師までを、ボランティアが担っているそうです。ボランティアといえど、プロフェッショナルと同様のスキルと労力が注がれています。

 また、ホームステイ受け入れボランティアには、石油産業で経済が潤ったテキサスならではの特徴があります。このコンクールでは、参加期間中も全コンテスタントがホストファミリーのもとで生活するため、ステイ先は、ピアニストが好きな時に練習できる環境が整っていなくてはいけません。本選まで進めば、協奏曲の練習のために伴奏ピアノが必要ですから、2台のピアノが置けるスペースも必要です(ピアノは貸与されます)。

 それでも、ボランティア精神豊かな富裕層が多いこの街では、三十数人にのぼる出場者全員を受け入れる充分な数のステイ先があります。いくつかのお宅を訪ねましたが、プール付きの広い庭は当たり前、海外ドラマで出てくるセレブの豪邸そのものでした。

 ちなみにそんな彼らが計画するわけですから、パーティーひとつとっても超ゴージャス。オープニングレセプションには数百人が出席し、フルコースの豪華ディナーの後に、出場者の演奏順を決めるくじ引きが行われていました。

◇ホストファミリー制度はないけれど……

 そして、これは少し変わったケース。イスラエルのテル・アビブで行われるルービンシュタイン国際ピアノコンクールでは、公式にはホストファミリー制度がありませんが、気に入った出場者が落ちてしまったとき、聴衆が個人的に声をかけてホームステイを受け入れたり、サロンコンサートを開いたりしていました。人々がおしゃべり好きで人懐っこいテル・アビブならではかもしれません。

 一方、ロシアのチャイコフスキー国際音楽コンクールやポーランドのショパン国際ピアノコンクールといった、ロシア東欧エリアの由緒あるコンクールでは、あまりボランティアの活躍を見ることがありません。

 エントランスのチケットもぎりも、屈強なガードマン風の男性が行っていることがほとんど。ホールの扉付近では、とっても強そうなベテランのおばさんレセプショニストが、マナー違反はないかと目を光らせています。

 以前、チャイコフスキーコンクールでこんな光景を目にしました。演奏が始まってから制止を無視してホールの中に入った女性を、ベテランスタッフのおばさんが後ろから羽交い絞めにして、外へ引きずり出したのです。日本ではまず見ることのない光景でしょう。衝撃的でした……。自由奔放な聴衆を取り締まるには、ベテランの威厳と技が必要なのかもしれません。

 さて、話はそれましたが、このように、世界のほとんどの音楽コンクールでボランティアの人々が活躍しています。なかでも仙台国際音楽コンクールは、ボランティアの活動が大変盛んで、出場者をとてもあたたかく応援してくれると、実は若手演奏家の間でとても有名です。

 ボランティアの存在は、限られた予算の中で充実したコンクールを運営することを助けているだけでなく、市民のアイデアによって、コンクールにその街ならではの特徴が生まれることにも寄与しています。運営に関わることで、多くの市民がコンクールへの愛着を持ち、自らの街から巣立った演奏家をずっと応援することにもつながるでしょう。

 演奏家と市民、双方にとって豊かなものをもたらすのが、コンクールのボランティア制度なのです。