Sendai International Music Competition

第13回:クラシックソムリエが案内する Road to 仙台国際音楽コンクール | 仙台国際音楽コンクール公式サイト

コラム&レビュー

第13回:クラシックソムリエが案内する Road to 仙台国際音楽コンクール

コンクールを聴くことのおもしろさはどこにある?(3)コンクールに関する漫画や映画、小説

クラシックソムリエ 高坂 はる香

◇コンクールは魅力的な題材!?

 

 今回は、コンクールに出場する若者たちの心境が緻密に描かれた、コンクールを題材とした漫画や映画、小説などの作品をご紹介しましょう。

 クラシック音楽漫画というと、大ブームとなった「のだめカンタービレ」(二ノ宮知子/講談社)を思い浮かべる方が多いことでしょう。アニメ化のみならず、豪華キャストによるドラマ化や映画化もされました。

 主人公は、ピアノ科の音大生で、天才的な音楽性を持ちながらも自由過ぎて破天荒な演奏をする、野田恵(のだめ)。そして同じくピアノ科に所属しながら指揮者を目指す、イケメンエリート音大生、千秋真一。クラシックの魅力、音楽を通じた若者の成長が描かれていると同時に、強烈キャラが繰り広げるラブコメディとして思わず吹き出すおもしろさ、また“音大生あるある”満載のリアリティがあるということで、一般読者はもちろん、演奏家たちからも絶大な支持を集めました。

 そんな「のだめカンタービレ」にもコンクールのシーンがあります。たとえ天性の才能があっても、ある程度譜面通りの“正しさ”がなくてはコンクールでは評価されにくいという現実も描かれます。コンクールの結果は良くなかったものの、審査員のひとりに才能を見いだされ、留学先でその師のもと学ぶというエピソードも、実際にもあることです。

 最近では漫画「四月は君の嘘」(新川直司/講談社)が人気です。母の死をきっかけにピアノが弾けなくなった元天才少年と、個性的なヴァイオリニストの少女をとりまく青春音楽ラブストーリー。二人が初めて共演するシーンは、少女が出場するヴァイオリンコンクールです。

 また、「このミステリーがすごい!大賞」を受賞し、映画化もされた小説「さよならドビュッシー」(中山七里/宝島社庫)も、謎解きが行われるクライマックスは、主人公がコンクールに挑むシチュエーションで訪れます。

 その他、オペラ歌手を目指すライバル同士の女の戦いを描いた漫画「プライド」(一条ゆかり/集英社)、また、古くは、恋とピアニストの夢の間で揺れ動く男の青春を描いた映画「コンペティション」(1980年、アメリカ)なども、コンクールのシーンが登場する作品です。

 極度の緊張、人との支え合いやライバルへの嫉妬、夢をかけた勝負と、さまざまな要素がつまったコンクールという場は、作家にとって魅力的な題材なのかもしれません。

 

◇出場者の心理状態が緻密に描かれた作品

 

 数ある作品のなかでも、コンクールやその背景で起きる人間模様に焦点があてられた漫画としてご紹介したいのが、「ピアノの森」(一色まこと/講談社)。森に捨てられたピアノを弾いて育った一ノ瀬海(いちのせかい)が、かつて天才ピアニストとして活躍した阿字野壮介(あじのそうすけ)に出会い、その豊かな才能を開花させてゆく物語です。

 17歳になった海は、ショパン国際ピアノコンクールに挑みます。物語の中では、音楽の道を志す者が心に抱える葛藤が緻密に描かれ、楽器を習っていた経験がある人はもちろん、何かに挑むもうまくいかなかった、それでも誰かが支えてくれた、そんな経験が一度でもある人なら共感する場面がいくつもあるでしょう。そしてなにより、まるで音楽が聴こえてくるかのような描写、主人公の海をはじめ、優しさと音楽への愛にあふれる登場人物たちの様子に、ショパンの音楽を聴きたくなります。2015年4月現在連載中ですが、もうすぐフィナーレを迎えそうです。

 ちなみに一色さんは実際にショパン国際ピアノコンクールの現地取材を重ねて作品を描いているので、ホールや参加者が行動する場所の描写など、事実にとても忠実です。ときには、モデルはあのピアニストかな?という登場人物も出てきます。

 こうした数々の作品を読むと、コンクールを受ける若者の心理状態や舞台裏の様子を知り、彼らの置かれている状況を一気に身近に感じることができます。もちろんフィクションの世界ではありますが、綿密なリサーチのうえ作られた数々の作品には、コンクールの聴きどころを知る大きなヒントが隠されています。

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