仙台国際音楽コンクール

Column&Review

第5回:クラシックソムリエが案内する Road to 仙台国際音楽コンクール

クラシックを聴くおもしろさはどこにある?(3)
さまざまな芸術が絡み合って生まれたクラシック音楽

クラシックソムリエ 高坂 はる香

名文学を音楽作品に

 

 作曲家の創作活動にインスピレーションを与えるものは実にさまざまですが、なかでもやはり、音楽に限らないさまざまな芸術からの影響は多大です。
ある楽曲が、戯曲や詩に基づいているということも、よくあります。例えば、ディズニーの『ファンタジア』で使われたことでも知られる、フランスの作曲家、デュカスの『魔法使いの弟子』は、ドイツの文豪ゲーテの作品に基づいた楽曲。
 そのゲーテと並ぶ文豪、シラーの詩からインスピレーションを受けて生まれた作品として超有名なのは、ベートーヴェンの「第九」。ベートーヴェンは20代の頃、シラーの詩作『歓喜に寄す』に感銘を受け、そこから構想を温め続けて30年後に交響曲第9番≪合唱付き≫を完成させました。
 オペラやバレエ、オーケストラ作品のテーマとして大人気なのは、シェイクスピア。ミュージカルや映画などでも大人気の演目『ロミオとジュリエット』は、ベッリーニ、グノーなどがオペラ、プロコフィエフがバレエ、そしてベルリオーズとチャイコフスキーがオーケストラ作品として取り上げています。

 

サロン文化がもたらした芸術家の交流

 

 また、同時代の芸術家同士の直接的な交わりが盛んな時代としてまず知られるのは、19世紀、サロン文化が花開いたパリでしょう。
 コンクールのピアノ部門でもよく耳にするショパンの練習曲作品10はリストに献呈されていますが、二人が知り合った場所もサロンでした。ショパンはサロンでリストに紹介された男装の女流作家、ジョルジュ・サンドと愛人関係になり、彼女の母性的な愛に包まれた30代中頃は、充実した創作活動を行います。
 ショパンは名画『民衆を導く自由の女神』などで知られる画家ヴウジェーヌ・ドラクロワともサロンで知り合い、親しい友人となって芸術についてもさまざまな論を交わしました。ドラクロワはショパンとサンドが共に描かれた肖像を残していますが、この肖像画、その後何らかの理由によってふたつに切り裂かれてしまいました。現在、ショパンの部分はパリのルーヴル美術館に、サンドの部分はコペンハーゲンのオードロップゴー美術館に所蔵されています。

 

ピカソやシャネルが手掛けた舞台

 

 一方、続く20世紀初頭の時代のパリでは、またそれまでとは違った形で芸術家の交流が起こりました。気鋭の作曲家同士が新しい音楽を生み出すべく結束し、刺激を与えながらそれぞれに創作活動を行うというものです。ミヨー、プーランクらによって結成されたフランス六人組やサティは、モンパルナスのカフェやキャバレー、画家のアトリエで、ピカソやシャネルなどの同時代の美術家とともに、親しく交流しました。そのため、当時のバレエ作品には、ピカソやシャネルが衣装や舞台を手がけているものがよくあります。そんな舞台、想像しただけでワクワクしますね。

 その他にも、19世紀のドイツでは、シューマンが親しかったハイネの詩からたくさんの歌曲を生んでいたり、ロシアでは、トルストイが友人だったチャイコフスキーの弦楽四重奏第1番を、作曲家の隣の席に座って聴いて涙を流したという逸話があったりと、同時代の芸術家同士の交流にまつわるエピソードは数知れません。
 みなさんが好きな文豪や画家と、実はあの大作曲家が大の仲良しだった!などということを知ると、その音楽がグッと身近に感じられるのではないでしょうか。またその逆に、楽曲の背景にあるものを知ることで、素敵な美術や文学との出会いがもたらされることもあるかもしれません。
 こうして数珠つなぎに関心が広がっていくところにも、長い歴史を持つクラシック音楽を聴くことのおもしろさはあるといえるでしょう。