Sendai International Music Competition

成田 達輝さんインタビュー | 仙台国際音楽コンクール公式サイト

インタビュー

第5回仙台国際音楽コンクールヴァイオリン部門第2位
成田達輝さん インタビュー

インタビュアー・文 音楽ジャーナリスト:正木 裕美

インタビュー日:2014年7月8日

第5回仙台国際音楽コンクールで2位に輝いた成田達輝が7月、仙台市の市制施行125周年を記念するコンサートや、市内小・中学校での訪問コンサートのため仙台市を訪れた。いずれの企画もコンクール入賞を機に実現したもので、パリと日本を行き来しながら演奏会を行う成田にとって、仙台での演奏はコンクール以来およそ1年振り。音楽的にもコンクール時から一層の深化を見せた成田に、現在の活動や仙台のコンクールについて話を聞いた。

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2014年の2,3月までパリ国立高等音楽院で勉強され、その後も演奏活動をしつつ、パリを拠点になさっているのですね。

「パリに初めて行った年は13区のモーリス・ラヴェル音楽院にいました。それ以来フローリン・シゲティ先生に習っていますが、今もたまに自宅にレッスンに行っては、音楽や人生、その他いろいろなことについて話します。それから長年、ジャン=ジャック・カントロフ先生にプライベートなレッスンを受けています。コンサート前などにはよく楽譜を見ながらディスカッションをします。先生の指導は味付けをしてくれる、というのでしょうか。個性を尊重してくれ、まるっきり変えるということはありませんね。」

日本では先生が生徒に内容を教示する一方通行の構図が一部で見られ、時にコンクールの演奏に表れる事もありますが、そうした指導とは少し異なるようですね。

「生徒側が自分の考えを伝えられるかどうかですよね。それがあるのとないのでは違うと思います。フランス語では先生に師事するということをOn travail avec~、つまりI practice with~と言います。つまり生徒も先生も同じ位置にいるんですよね。日本語の「師事する」という表現とは違います。だからそれもあるかもしれません。」

今回、仙台市内の実沢小学校で演奏されましたが、子供たちを間近に座らせ、音楽を通じた積極的な取り組みを行う様子が印象的でした。バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番からフーガを演奏した際は、テーマの掛け合いをロンドン橋に例えたり、筆写譜のコピーを見せたりしたことも子供たちの興味を引きつけていましたね。

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「子供たちはある程度興味を持ってきてくれているわけだから、演奏者に近づいてもらった方が楽器とのコンタクトも近く、臨場感も伝わります。こうした取り組みの中で、できることはたくさんあると思うと可能性は広がりますよね。バッハの3番は、先日ギリシャのアテネでレオニダス・カヴァコス先生のヴァイオリン・マスタークラスを受けた際に見てもらったのですが、それまで僕はあるスタイルで作品に対して一方的に弾いていて、その時代背景やスタイルを尊重していなかった。ところがカヴァコス先生のレッスンを機に音楽の見方がすごく変わって、バッハがぐっと身近なものになりました。彼からもらったこのエッセンスを子供たちに届けたいと思ったのが、今回、実沢小学校でこの曲を演奏したきっかけです。プログラムを決める段階で、子供たちには難しいのでは? という意見もありましたが、当日「フーガでいろいろなメロディが聞こえてきておもしろかった」という意見が聞けて、あぁよかったとすごく嬉しかった。やってよかったと思います。」

大人にすら難解に思われかねない作品が子供たちに受け入れられている様子に、正直驚きました。今回の学校訪問や前日の仙台市市制施行125周年記念演奏会への出演は、2013年の仙台でのコンクール入賞がきっかけとなりましたが、ここで改めて、仙台国際音楽コンクールの印象をお聞かせ下さい。

「セミファイナルでシマノフスキを、そしてファイナルでブラームスの協奏曲を弾いた時は、いずれもひとりひとりお客様がオープンマインドで自分は聴きに来ている、音楽を受け取る準備ができていますよ、という方々がたくさんいらしていたように思います。だからすごく弾きやすかったですし、演奏する側の自分も皆さんのそうした「気」に引かれながら、もっといいものをその瞬間瞬間で作っていこうと思いました。」

ロン=ティボー国際コンクール、エリザベート王妃国際コンクールでも2位に入賞されていますが、こうした国際コンクールと比較してみて、雰囲気などはいかがですか。

「仙台はボランティアの方たちが本当に親切です。行きたい場所があって道を訊ねた際も、ボランティアの方が作った地図を手に親切に教えて下さいました。僕が今まで受けた国際コンクールの中で、エリザベート・コンクールは街ぐるみ、国ぐるみで運営しているため、どこへ行ってもコンクールの名が知られていたんですね。同じように仙台のコンクールも、タクシーの運転手さんに聞いても知っていますし、皆がコンクールのことを知っている環境で弾けるというのは良いと思いますね。」

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このコンクールを受けたきっかけは?

「ひとつは、僕の親戚が青森や秋田に住んでいて、演奏を聴きに来てもらうことができた点です。それと課題曲が魅力で、本選のブラームスの協奏曲を弾きたかったという点です。ブラームスはこれが初めてでした。そういう点でリチャード・リン君より勉強不足でしたので、残念だったかなと思います。僕自身、演奏機会が一番多い協奏曲はシベリウス、次がメンデルスゾーンかパガニーニです。チャイコフスキーはまだ3回ほどです。」

他のプログラムはいかがでしたか?

「同じく予選のモーツァルト、セミファイナルでのベートーヴェンの「ロマンス」やシマノフスキも、レパートリーを広げるのに役立つと思いました。新たにチャレンジして、それで曲が好きになれたらいいんじゃないかと思って。シマノフスキの協奏曲第1番はすごく好きです。パリみたいに混沌としているじゃないですか。時代としてはブラームスのあとにR.シュトラウス、ワーグナーと来てシェーンベルクで線を引くギリギリの、退廃的ですごいところに位置していますよね。それが協奏曲のソロのヴァイオリン1本で弾けるというのが素晴らしい。1番は滅多に弾ける機会はないですし。僕にとってはコンクールの課題曲の内容というのはすごく重要で、“今の自分だったら弾けるかもしれない”、という観点で選んでいます。それがもし僕のまだ知らないシェーンベルクだったりしたら、今回の仙台のコンクールは選んでなかったと思いますね。」

その時々の自分と向き合いつつ、その都度新たな演奏を聴かせてくれる成田達輝。仙台では今回のような企画や、今や秋の風物詩となった「仙台クラシックフェスティバル」など、さまざまなクラシック音楽のイヴェントが開催されている。聴き手を音楽へと誘う成田の成長ぶりを目にした今、またこうしたイヴェントで彼と聴衆の音楽の交歓が聴けることを、楽しみに待つとしよう。

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