仙台国際音楽コンクール

Column&Review

第20回:クラシックソムリエが案内する Road to 仙台国際音楽コンクール

審査委員の顔ぶれ、ここがすごい(1)ヴァイオリン部門

クラシックソムリエ 片桐 卓也

◇審査委員長に堀米ゆず子を迎え、新たな陣容となった審査委員

 コンクールの審査委員というのは本当に大変な仕事だなと思うことが多い。たくさんの出場者、かなり長い期間にわたる審査。その間に、どうやって集中力を維持されているのか、いつも気になるところである。個人的な体験で言えば、1996年に開催されたリーズ国際ピアノコンクール(イギリス・リーズ)を最初から最後まで、その審査に付き合って取材したことがあった。第1次予選では、次から次へ未知のピアニストが登場して演奏するので、退屈はしないのだけれど、ひとりひとりの音楽性やテクニックなどを聴き取ろうとすることは意外に疲れることだった。さらに、第2次予選、セミファイナル、そしてファイナルと進んで行くうちに、参加者の演奏時間も長くなる。多彩な演奏曲目の印象を整理するのも、時間のかかることであった。

 

 さて、第6回の仙台国際音楽コンクール、そのヴァイオリン部門には世界的なヴァイオリニストが集まった。審査委員長は第6回から堀米ゆず子が就任し、審査委員の顔ぶれもだいぶ入れ替わった。言うまでもないが、堀米は日本を代表するヴァイオリニスト。1980年のエリーザベト王妃国際音楽コンクールで日本人として初めて優勝した。その後世界的に活躍を続けている。堀米を中心とした審査委員団の構成の中で、まず注目したいのは、ファイナルだけだが世界的な巨匠ギドン・クレーメルが参加することだ。ラトヴィアのリガに生まれたクレーメルはオイストラフの弟子である。チャイコフスキー国際コンクールのヴァイオリン部門の覇者だ。古典から現代の作品まで、本当に幅広いレパートリーを持っている。クレーメルの審査への参加は、大きな話題となるはずだ。

 

 審査副委員長の堀正文とロドニー・フレンドは共に一流オーケストラのコンサートマスターとして活躍し、若いヴァイオリニストを育てる仕事にも携わっている。コンサートマスターという仕事は、ヴァイオリンのテクニックだけでなく、音楽全体の捉え方や、ソリストとして来演する演奏家の音楽性についても深い理解が必要なポジションである。その経験の豊かさから導き出される見解は貴重なものになるだろう。

 

 審査委員には、現役で演奏活動を続ける人も多い。ボリス・ベルキン、ヤンウク・キム、チョーリャン・リン、竹澤恭子などは、世界各地のオーケストラ、コンサートホールで活躍を続けるヴァイオリニストであり、これだけ多くの演奏家が審査に参加するというのはあまりないことだ。コンクール審査は時間がかかるので、現役の演奏家が審査に参加することは少ない。しかし、現在の音楽界の状況をよく知っている演奏家が多く審査に参加することは、世界に飛び立とうとしている若いヴァイオリニストにとって、とても嬉しいことだ。レジス・パスキエはフランスの大御所で演奏も続けているし、名教師としても有名だ。マウリシオ・フックスもハイフェッツの弟子として知られる名手で、現在は主に教育者として活躍している。そして加藤知子も現役の演奏家として、また桐朋学園大学教授としても活躍中だ。

 

 さらにホァン・モンラが加わる。彼は第1回仙台国際音楽コンクールの優勝者。彼も世界的な活動に加え、母国・中国の上海音楽院で後進の指導もおこなっている。同じコンクールの優勝者が審査委員に加わるのは、最近いくつかの国際的コンクールで見られる傾向だ。音楽家として成長したホァン・モンラが若い世代にどんな影響を与えるのかにも注目したい。

 

 第6回の審査委員は豪華なメンバーとなった。コンクールに挑戦する若い演奏家にとって、この審査委員の前で演奏するのはとても素晴らしい経験となりそうである。