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キム・ヒョンジュン ピアノリサイタル プログラムノート | 仙台国際音楽コンクール公式サイト

コラム&レビュー

キム・ヒョンジュン ピアノリサイタル プログラムノート

音楽評論家:萩谷 由喜子

モーツァルト:ピアノ・ソナタ ヘ長調 K280

昨年のコンクールファイナルでモーツァルトの協奏曲第19番K459を軽快なタッチで聴かせ満場の共感を誘ったキム・ヒョンジュンが、今回はモーツァルトのソナタから幕を開ける。
1774年12月から翌年3月まで滞在したミュンヘンで、モーツァルト(1756-1791)は選帝侯の侍従デュルニッツ男爵と懇意になり、ファゴット作品数曲と、K279からK284までの6曲の通称《デュルニッツ・ソナタ》を男爵に献呈した。K280はその第2作。若々しい楽想に満ちた晴れやかなソナタである。

第1楽章:アレグロ・アッサイ、ヘ長調、3/4拍子。溌溂とした第1主題、左手と右手が対話する第2主題を中心に進められる。

第2楽章:アダージョ、ヘ短調、6/8拍子。一転して内省的な楽想が哀感を伴って歌われる。

第3楽章:プレスト、ヘ長調、3/8拍子。弾むような主題によるフィナーレ。

 

シューマン:謝肉祭 op.9

1833年、シューマン(1810-1856)のピアノの師ヴィークの門下にエルネスティーネという男爵令嬢が入門してきた。彼女に惹かれたシューマンは彼女の出身地ボヘミアのアッシュ(Asch)の綴り文字を織り込んだこのピアノ組曲を着想する。全体のテーマは謝肉祭の仮装パーティーに設定され、各曲には道化役者や多彩なキャラクターが登場する。ドイツ音名でA、S(Es)、C、H(ラ、♭ミ、ド、シ)または、As、C、H(♭ラ、ド、シ)の4つの音が随所に織り込まれている。

第1曲〈前口上〉:謝肉祭の開始を告げる。

第2曲〈ピエロ〉:4つの音は最初低音部に、次いで高音部にも現れる。

第3曲〈アルルカン〉:アルルカンも道化役者。A・Es・C・Hから始まる。

第4曲〈ヴァルツ・ノブレ〉:Es・H・Cから始まる上品なワルツ。

第5曲〈オイゼピウス〉:シューマンの二人の分身のうち、瞑想的なキャラクター。

第6曲〈フロレスタン〉:彼のもう一人の分身。快活なキャラクター。

第7曲〈コケット〉:コケティッシュな女性の道化。

第8曲〈応答〉:コケットの動機を用いた短い曲。

第9曲〈パピヨン〉:4つの音符で始まるせわしない小曲。

第10曲〈ASCH-SCHA・踊る文字〉:短い装飾音とスタッカートが特徴。

第11曲〈キアリーナ〉:キアリーナとはクララのこと。切なく甘美な調べ。

第12曲〈ショパン〉:ノクターン風の調べが反復して奏される。

第13曲〈エストレッラ〉:エルネスティーネをあらわす。As・C・Hから始まる。

第14曲〈再会〉:4つの音符から開始される。

第15曲〈パンタロンとコロンビーヌ〉:男女の道化の追いかけっこ。

第16曲〈ヴァルツ・アルマンド〉:ドイツ風ワルツ。中間部は〈パガニーニ〉という賑やかな間奏曲。

第17曲〈告白〉:ためらいがちの愛の告白。

第18曲〈プロムナード〉:恋人たちが散歩する。

第19曲〈休憩〉:終曲への導入にあたる短い急速な曲。

第20曲〈ペリシテ人と闘うダヴィット同盟の行進〉:ペリシテ人とはシューマンの音楽を理解しない俗人たち。ダヴィット同盟とはシューマンの音楽上の同志。ドイツの結婚式の定番曲《父祖の踊り》の旋律も引用されている。

 

プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ 第 2 番 ニ短調 op.14

9曲あるプロコフィエフ(1891-1953)のピアノ・ソナタのうち、第2番はペテルブルク音楽院在学中の1912年に作曲され、1915年2月5日に自身の独奏によってモスクワで初演された。前後する第1番と第3番が習作からの改作であるのに対して、第2番は4つの楽章すべてが書き下ろしで、彼の旺盛な創作意欲をうかがわせている。長調楽章が一つもないが、軽快なリズムと躍動感のある音の動きが随所に見られる。

第1楽章:アレグロ・マ・ノン・トロッポ、ニ短調、2/4拍子。力強い第1主題と動きのある第2主題によるソナタ形式。

第2楽章:スケルツォ、アレグロ・マルカート、イ短調、4/4拍子、3部形式。右手の刻むリズム・モチーフの上を左手がせわしなく動くスケルツォ主部と、短い音型を重ねる中間部からなる。

第3楽章:アンダンテ、嬰ト短調、4/4拍子、3部形式。主部ではほの暗い楽想が次第に昂揚する。中間部では特徴的なモチーフが執拗に現れる。

第4楽章:ヴィヴァーチェ、ニ短調、6/8拍子。激しいロンド主題に始まる。途中いったん終息して新たな主題も出されたのち、最後はロンド主題で終わる。

 

ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 op.58

1844年5月、パリのショパン(1810-1849)のもとにワルシャワから父の訃報がもたらされ、彼は意気消沈する。そこで、恋人ジョルジュ・サンドは同年夏、中部フランスのノアンに持つ彼女の館に彼の姉一家を招き、14年ぶりの姉弟再会の機会をつくった。おかげでショパンは新たな創作力を湧きあがらせ、この傑作ソナタを書き上げている。曲は古典の様式美が尊重された4楽章構成。各楽章にはショパンならではのアイディアが見事に開花している。

第1楽章:アレグロ・マエストーソ、ロ短調、4/4拍子。鋭い下降音型と上昇句の漸次強奏による第1主題と、憧憬を秘めた第2主題によるソナタ形式。

第2楽章:モルト・ヴィヴァーチェ、変ホ長調、4/4拍子。急速な主題から始まるスケルツォ。穏やかな中間部を挟んで主部が再現される。

第3楽章:ラルゴ、ロ長調、4/4拍子。短い序奏を持つノクターン風の甘美な主部と、光の雨が降り注ぐかのような柔和な中間部からなる。

第4楽章:プレスト・ノン・タント。ロ短調、6/8拍子。ロンド形式による華麗なフィナーレ。ロ長調のコーダで全曲を結ぶ。

 

 

キム・ヒョンジュン ピアノリサイタル

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