Sendai International Music Competition

第24回:クラシックソムリエが案内する Road to 仙台国際音楽コンクール | 仙台国際音楽コンクール公式サイト

コラム&レビュー

第24回:クラシックソムリエが案内する Road to 仙台国際音楽コンクール

課題曲、ここを聴け!(1)ヴァイオリン部門予選・セミファイナル

クラシックソムリエ 片桐 卓也

◇楽器としてのヴァイオリンの魅力、演奏家の魅力はどこにあるのか?
それを知るために準備された課題曲

 

 どんなコンクールにもたくさんの課題曲がある。「どうして、好きな曲を自由に選ばせて、それで審査しないのだろうか?」と素朴な疑問を持つ方も多いだろう。コンクールの課題曲とは何か? それはとても深遠なテーマである。と同時に、コンクール出場者にとっては、最も関心のある、重要なテーマである。

 楽器の基本的なテクニック、その演奏家の音楽性をチェックするためだけなら、演奏会でも定番となっている楽曲、ヴァイオリンの場合、J.S.バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータのどれか1楽章、そしてパガニーニの「カプリース」のどれか1曲を指定して、全員に弾かせてみればわかるだろう。

 しかし、その2曲の課題曲を与えられたコンクールの優勝者がいたとして、彼ら彼女らはプロの演奏家としてもっと多彩な曲目を演奏するようにすぐ求められる。バロックから現代まで、ソロで演奏する楽曲だけでなく、ピアノと共演するソナタも、オーケストラと一緒に演奏する協奏曲も、である。優れた演奏家を世に出したい、というのが審査委員を含めたコンクール関係者の願いである。それに応えることのできる優勝者、入賞者をどう発見するのか? そこに課題曲の必要性、意味があると思う。

 

 仙台国際音楽コンクールの特色は協奏曲を課題曲の中心に据えていること。協奏曲は演奏家にとって、演奏頻度の高い楽曲である。難しい協奏曲を弾きこなせるテクニックだけでなく、指揮者、オーケストラとのコミュニケーションも大事だ。予選、セミファイナル、ファイナルと順を追って聴いていく時に、その演奏家の個性、今後の可能性が見えてくる。協奏曲をあまり演奏したことのない演奏家にとって、仙台国際音楽コンクールのハードルはとても高いと思う。しかし、そのハードルを越えた優勝者、入賞者が世界各地の演奏会で、他のコンクールで活躍しているのは、皆さんもよくご存知だろう。

 

◇対照的な世界を表現しなければならない予選

 

 予選の課題曲となっているモーツァルトの作品はいずれも短い作品だけれど、指揮者なしで小編成のオーケストラと演奏する。そこではコンテスタントの音楽性がそのまま現れることになる。そして音色の美しさ、音程の正確さなども手に取るようにわかるので、短い作品ながら、演奏者はとても難しいと感じているはずだ。

 それに加えて20世紀のバルトークの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」の第1楽章、そして19世紀のパガニーニの「カプリース」から1曲を選んで演奏する。パガニーニの「カプリース」は、ピアニストにとってのショパンの「エチュード」のような位置にある作品だろう。テクニック的にも難しく、しかし単にテクニックを披露するだけではなく、それぞれの作品の個性、その魅力をどれだけ表現できるかもポイントとなる。

 バルトークの作品はバルトーク最晩年の傑作で、巨匠メニューインのために書かれた。ヴァイオリンのテクニックに詳しかったバルトークが、そのひとつひとつの音に込めた想いをどう表現するのか? バルトークが長く暮らしたハンガリーの風土、それを感じさせてくれるような演奏がでてくることを期待したい。これはコンテスタントのパッションが問われる課題曲であると思う。

 多くの入賞者がコンクール後に語るように、予選が最も難しいかもしれない。

 

◇ロマン派名作の広がりを追いかけるセミファイナル課題曲

 

 セミファイナルも興味深い。まずシューマンのヴァイオリン協奏曲は全曲を演奏する。シューマンのヴァイオリン協奏曲は遺作であり、初演まで80年ほどにわたり封印されていた作品だ。現在でもあまり頻繁に演奏される作品ではない。それに対して、サン=サーンス、サラサーテ、ラヴェルの作品は、ロマン派から近代にかけてのヴァイオリン名曲として知られる作品ばかり。セミファイナルでもあえて対照的な作品を並べて、コンテスタントのさまざまな可能性をチェックしようとする意図が見える。

 サン=サーンスの「序奏とロンド・カプリッチオーソ」は通称「ロン・カプ」と呼ばれていて、演奏会でもよく取り上げられる名曲のひとつ。またサラサーテの「カルメン幻想曲」は、ビゼーのオペラ「カルメン」の音楽をヴァイオリンで演奏するために書かれた傑作のひとつで、華やかな魅力を持つ作品だ。ラヴェルの「ツィガーヌ」はそのタイトルが表すように、19世紀に注目されるようになったツィガーヌ(=ロマ)の音楽を、ラヴェルらしい個性で表現した作品である。

 シューマンでは音楽的な内容をどこまで深く表現できるかを問いかけ、サン=サーンスなどではヴァイオリンの華麗な一面をどう表現するかを問いかける。どちらもヴァイオリニストにとっては必要なもので、ハードルはかなり高いと思う。それに挑戦する若者たちの意欲に期待したい。

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