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第8回:クラシックソムリエが案内する Road to 仙台国際音楽コンクール | 仙台国際音楽コンクール公式サイト

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第8回:クラシックソムリエが案内する Road to 仙台国際音楽コンクール

“コンチェルト”ってどんなもの? その正体を知る

クラシックソムリエ 柴田 克彦

 ソリスト=独奏者がオーケストラをバックに颯爽とソロを弾く「協奏曲(コンチェルト)」。ソリストの名人芸とオーケストラ音楽を一挙に楽しめるのですから、聴き手にとっても一石二鳥。仙台国際音楽コンクールの課題曲も、協奏曲を中心に構成されています。

 今回はそんな協奏曲の正体(?)を探っていきましょう。

 

◇そもそも協奏曲って何?

 

 ざっくり言えば「ソリストとオーケストラが協奏する作品」。加えて「ソリストは(1楽章や一部分ではなく)全曲にわたってソロを弾き」、「ソロ部分は奏者の高度な技巧と音楽性を発揮できるよう書かれている」のが、一般的な協奏曲の条件です。また「コンチェルト」(イタリア語)とも呼ばれますが、語源のラテン語は「競う」、イタリア語は「協力する」を意味しており、この双方がまさしく協奏曲のイメージといえるでしょう。

 18世紀初め頃のバロック時代には「合奏協奏曲」(コンチェルト・グロッソ)という形態が主軸でした。これは、“複数楽器”による独奏群と合奏群の対比を基本とした形。一方で、ヴィヴァルディなどによって「独奏協奏曲」(ソロ・コンチェルト)が生み出され、モーツァルトの時代からはこちらが主流となります。そしてベートーヴェンが作品の規模を、パガニーニのようなヴィルトゥオーゾ(技巧的な名人演奏家)が人気を拡大。19世紀のロマン派の時代に、メンデルスゾーン、ショパン、ブラームス、チャイコフスキーなどが、現在レパートリーの中心を成す独奏協奏曲を発表し、ラフマニノフなどに引き継がれていきました。

 独奏楽器は、華やかなピアノやヴァイオリン、次いでチェロあたりが中心ですが、テューバや打楽器を含むほとんどの楽器のために何らかの協奏曲が書かれています。

 

◇ソリストと指揮者、オーケストラの関係は?

 

 あるコンクール出場者は、こう言いました。「オーケストラとの日常練習は不可能なので、共演できるだけでもコンクールに出る価値がある」。この言葉でわかるように、協奏曲は、他の器楽ジャンルに比べて一発勝負の度合いが高い形態です。もちろんソリストと指揮者は、テンポ等の解釈を打ち合わせし、リハーサルも行います。しかし日常的に共演しているわけではない上に、相性は様々です。20世紀の個性派ピアニスト、グレン・グールドと大指揮者レナード・バーンスタインが共演した際、最後まで解釈がかみ合わず、本番前にバーンスタインが「意見が食い違ったまま演奏します」とスピーチしたのも有名な話(これはCDも出ています)。この微妙な関係がまた協奏曲の妙味でもあります。

 音楽作りに関しては、ソリストの解釈が尊重される傾向にありますが、これも指揮者次第であり、ましてやライヴは生もの。一人が同じ曲を弾いても、まるで状況が変わります。ちなみにあるピアニストは、「オーケストラのテンポが意に沿わないときは、ソロの部分で自ら変えることもある」と話していました。

 本番中のやりとりも色々。大きな動きでソリストに合図する指揮者もいれば、ほとんど関知していない(ように見える)指揮者もいますし、ソリストの応対も同様です。ポイントの箇所で指揮者が軽く合図や目配せを送るのが一般的ですが、こうしたやりとりに注目するのも一興といえるでしょう。

 ソリストとオーケストラの演奏のみならず、ソリストと指揮者、オーケストラとの呼吸や音のバランス、舞台上のやりとりなど、見るべき点が多いのが協奏曲の特徴でもあります。

 

◇カデンツァあれこれ

 

 協奏曲を聴くと、ソリストが「長めの技巧的なソロを無伴奏で弾く」場面があるのに気付かれるでしょう。それが「カデンツァ」。主に第1楽章の終盤に置かれた、ソリストの見せ場です。

 モーツァルトの頃までは、演奏者が自作のカデンツァを即興的に弾いていました。ですからモーツァルトのピアノ協奏曲は、楽譜に記されていないケースがほとんどです(弟子等のために書いたものが残されている曲もあり)。とはいえ演奏者の自作は大変。そこで大作曲家や名演奏家の作が登場します。有名な例ではピアノ協奏曲第20番。大半の奏者がベートーヴェン作(夢のコラボ?)のカデンツァを弾きます。曲によっては今も自作する奏者がいて、当時の楽器では出ない音を交えたり、妙にモダンだったり……とこれもまた興味深い場面となります。

 しかしながら、作曲者以外の演奏では、常に別人の創作が割り込むことになり、音楽の流れの寸断や質の低下といった事態が生じます。これに我慢ならなかったのがベートーヴェン。彼はピアノ協奏曲のカデンツァを自ら楽譜に記し、以後はそれが通例となりました。

 ただ、ピアノの名手ベートーヴェンも、ヴァイオリン協奏曲にはカデンツァを記しておらず、ヨアヒムやクライスラーといった後世の名奏者の作が主に演奏されています。それにまつわる面白い話があって、同曲の録音を聴いていたある音楽通が、「私はこの曲では、ここが一番だと思うね」と同席者に語ったその箇所は、クライスラー作のカデンツァだったとか。これを聞いたら、天国のベートーヴェンも髪を振り乱して怒りそうです……。

 このように多様な要素を味わえるのが協奏曲の醍醐味。色々な面に注目してみると、聴く楽しみもより増すことでしょう。

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