コラム&レビュー
第2回:クラシックソムリエが案内する Road to 仙台国際音楽コンクール
日常にあふれるクラシックの名曲
クラシックソムリエ 高坂 はる香
◇古くて新しいクラシック音楽の世界!
毎週新たな楽曲が現れては消える、ポップスのヒットチャート。誰もが口ずさんだヒット曲の多くも、10年もたてば“懐メロ”になってしまうのが今の時代です。
一方でクラシック音楽に目を移すと、例えばJ.S.バッハ(1685-1750)の作品なら約300年、近代の作品でも、ラフマニノフ(1873-1943)なら約100年もの長きにわたって演奏され続けていることになります。人類にとって、クラシックの名曲はやはり普遍的な魅力を持つものなのでしょう。
◇有名な「ジュピター」、原曲につけられた副題は…?
実際、ポップスの世界にもクラシックの名曲のメロディが取り入れられたものがたくさんあります。
良く知られている例で言えば、平原綾香さんの「ジュピター」(2003年リリース)。これは、イギリスの作曲家ホルストの管弦楽作品、組曲『惑星』の4曲目『木星』(ジュピター)から主題をとり、オリジナルの歌詞がつけられたもの。
ホルストの原曲は7つの惑星の名を持つ楽曲からなり、それぞれに占星術の観点からみた副題がつけられています。ちなみに『木星』につけられている副題は「快楽をもたらす者」。人が支え合う心を歌ったあたたかい歌詞のイメージからすると、少しギャップがあるかもしれませんね。
◇演奏会で聴いたら、思わずあの商品が頭に浮かぶ!?
映画やテレビの世界でも、実に頻繁にクラシック音楽が使われています。CMでも、車や食品、そして携帯電話会社など、いろいろありますね。
某胃腸薬のCMには、長らくショパンのプレリュード第7番イ長調が使われていましたから、コンサートでピアニストが神妙な顔をしてこの曲を弾き始めた瞬間、どこか胃もたれがスッとするような気分になる人もいるのでは……。ちなみにこの作品がCMに起用された理由は、「イ長調」と「胃腸」をかけているという噂です。
ときにはサビの部分のメロディに商品名が入った歌詞がつけられ、お馴染みの1曲になることもあります。オッフェンバックのオペレッタ「天国と地獄」(ギリシャ神話の悲劇のパロディ)からの楽曲が使われた某カステラのCMなど、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
コンクールのステージで演奏される作品の中にも、「これはあの映画で使われていた!」とか、「好きな女優さんの出ているあのCMで聴いたことがある」という楽曲が、きっと出てくると思います。
◇作曲の背景を知ると、ちょっと複雑な気分
一方、意外なところで日常的に耳にしているのが、電化製品や業務用機器から流れてくる音楽。携帯の着信メロディはもとより、お風呂が沸いたときや炊飯器でご飯が炊きあがったときのメロディ、駅構内で掃除マシンが通過するときや、町を走るごみ収集車から流れるメロディ…。
先日は歯医者さんで、頭の周りを回転するレントゲンマシンから、無機質な電子音でベートーヴェンの「エリーゼのために」が流れてきました。
この曲は、ベートーヴェンが40歳の頃、身分違いのため結ばれなかった女性(実際にはこの女性の名前はテレーゼ:Thereseで、ベートーヴェンの悪筆のため、誤ってエリーゼ:Eliseとして出版されたという説があります)への想いを込めて書き上げた小品です。それを思うと、もしもこのメロディがこういう形で使われていることをベートーヴェンが知ったらどう思うのだろう……などと考え込んでしまうのでした。
古くから受け継がれてきたクラシック作品。耳馴染みのいいメロディだけが抽出されて使われることが多いですが、実はその作品の背景には深いストーリーや意外なエピソードが隠されていることもあります。それを知って身の回りのクラシックに耳を傾けると、新しい発見があるかもしれません。