Sendai International Music Competition

津田 裕也さん インタビュー | 仙台国際音楽コンクール公式サイト

インタビュー

第3回仙台国際音楽コンクールピアノ部門優勝者
津田 裕也さん インタビュー

インタビュアー・文:下田 幸二(音楽評論家・ピアニスト)

インタビュー日:2014年5月30日

5月30日に仙台フィルのオーケストラ・スタンダードでベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番を颯爽と演奏し、聴衆の大喝采を浴びたピアニスト津田裕也さん。演奏会の翌朝にもかかわらず、微塵の疲れも見せずにお話は始まった。

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「昨夜は皆さまに温かく聴いていただけてとても幸せでした。仙台では、2007年の仙台国際音楽コンクール優勝以来、仙台クラシックフェスティバルや仙台フィルの定期などで何回も弾いています。地元での演奏は、ありがたくもあり、毎回成長していないといけないので、プレッシャーもあります。」

コンクールは数あるが、コンクール後に演奏の機会がこれだけ充実していくコンクールは少ない。多くのコンクールは、そのコンクール関係の演奏会があっても、次のコンクール優勝者が出ればおしまいだ。

「私は運が良くて。仙台国際音楽コンクールがきっかけとなって、演奏の場が大きく広がりました。昨日の指揮者である飯守泰次郎先生との共演も3回目です。

今回は、2週間前にベルリンから戻りました。6月3日に浜松でチェロの山崎伸子さんと小学校でアウトリーチ的コンサートをいたします。6月14日にはヴァイオリンの久保田巧さんと新潟でリサイタル、30日は静岡の三島でリサイタルをいたします。

2007年秋からベルリンに留学して、パスカル・ドヴァイヨン先生のもとでドイツ国家演奏家資格を得るまで勉強してきたのですが、年5回くらい演奏会のために日本に戻る生活をしてきました。ドイツでも、仙台のウェブサイトを見て、私をリサイタルに呼んでくださったところもありました。仙台のコンクールでの演奏がドイツの見知らぬ町での演奏に結びついたのです。」

大きなコンクールで優勝した後に留学するというケースは多くない。コンクールで結果を出した自信がどのように役に立ったのだろう。逆に、プレッシャーはあるのだろうか。

「第3回コンクールに出場した時は、優勝できるなんて思っていませんでした。ですから、優勝しても自信ということではなく、優勝したことが果たしてよかったのかな?という感じで留学生活が始まりました。演奏機会が急に増えて、それに戸惑うこともありましたし…。それを一つ一つ乗り越えていく中で時が経ったという感じです。必死でしたね。

ベルリンにはさまざまな国からいろいろな才能が集まっているので、友人同士で演奏を聴きあって批評をしあうということがとても役立ちました。メンバーもピアノだけでなく声楽家の学生などいろいろで、違った視点の指摘をしあえる。『ピアノではそう弾くかもしれないが、歌い手はそうは歌わないよ』とか(笑)」

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仙台国際音楽コンクールは、ベルリン芸術大学でも有名で、出場経験者も多く同窓会のような雰囲気もあるようだ。仙台では、残念ながら先へ進めなかったコンクール出場者にもいろいろな演奏の場が与えられる。そういうことも、出場者の間では好印象に結びついているようだし、事務局やボランティアの評判も抜群だ。

「ベルリンでは私と同じ回のコンクールを受けていた人がいます。例えば第2位の台湾のルー・イチュくんはヘルヴィッヒ先生門下です。ドヴァイヨン・クラスのドイツのエスター・ビリンガーさんも受けていました。ベルリンの学校にも仙台国際音楽コンクールの案内がおいてありますしね。

ボランティアの方との交流が続いている出場者も多いです。入賞者以外に演奏の場を考えてくれることのありがたさもありますが、出場者の言葉で特に多いのは、『落ちてしまったあとも、事務局やボランティアの方々が、同じように接してくれたのが本当に嬉しかった』という声です。ほかのコンクールの経験で『落ちたとたんにもうあなたはどうでもよい』というような対応を受けることは、残念ながらあることなのです。それが、『仙台は違う。温かい!』と言ってくれる。仙台国際音楽コンクールの特徴だと思います。」

津田さんは、コンクール後、ホール以外での訪問コンサートなども行ってきた。

「何度か小学校にもうかがいました。子供たちが『こんな音がこのピアノから出るんだぁ』と驚いてくれました。第2回のヴァイオリン部門優勝者の松山冴花さんと小学校に行ったときは、弓を開いて見せてあげたり、ピアノの鍵盤数のクイズを出したり(笑)。冬場の体育館での演奏は、寒くてたいへんでした。先生方がストーヴを一生懸命炊いてくれるのですが、鍵盤はどうしても冷たくて。氷の鍵盤を弾いているよう(笑)。でも、楽しかった」

今後の活動も楽しみなものが多い。

「日本では、この秋に、仙台クラシックフェスティバルに出演します。また、11月には東京でリサイタルを予定しており、シューベルトのソナタイ長調D.959を弾きます。シューベルトは大好きな作曲家です。ベートーヴェンの協奏曲は、3、4、5番はすでにレパートリーですが、1、2番も含め全曲弾いてみたいです。ショパンやシューマンやブラームスの協奏曲も弾きたいですね。ドイツに行って音の質や厚みにはとても注意して学んできました。それを作品に生かしていきたいです。教えることにも興味があります」

仙台で成功をおさめた津田裕也さん。今後、仙台国際音楽コンクールを受けられる方に、音楽家の先輩として言ってあげられることはあるだろうか。

「仙台に限らないことですが、コンクールの結果に一喜一憂しないでほしいです。それまでの取り組みを大切にして、音楽に向き合うことが大切だと思います。自分の好きな音楽なのですから、結果ばかりを気にしすぎては、音楽に向かう姿勢がおかしくなります。

また、コンクール自体を一つの演奏の場と考えると良いと思います。仙台に関して言えば、コンチェルトをセミ・ファイナルから弾けることは嬉しいことです。実は、私は第2回のコンクールも受けていて、その時はセミ・ファイナルまでだったのですが、そこで弾いたラヴェルの経験がすてきで、第3回も受けたのです。

このコンクールは、リピーターが少なくない。それはきっと、いろいろなケアが充実していることと、セミ・ファイナルから協奏曲を弾けるというのもありますね。お客さんも予選からたくさんいますし。緊張しながらも、『演奏をお客様に聴いていただいている』という喜びはあると思います」

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津田さんは、仙台のことをたいへん愛しているようだ。また、演奏を待ち望んでいるファンがたくさんいる。

「仙台は《杜の都》です。第一の特徴は自然でしょう。そして、食事。特に、お米やお酒は素晴らしい。私は仙台出身ですから、そこは自慢です(笑)。都会的部分と素朴な部分が同居しているのが仙台です。

毎回、私の演奏を聴きにきてくださる皆様にも、常に新しい挑戦をして、毎回成長した演奏をお聴かせできるように頑張ります!」

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