Sendai International Music Competition

第9回仙台国際音楽コンクール ピアノ部門 野平 一郎 審査委員長インタビュー | 仙台国際音楽コンクール公式サイト

インタビュー

第9回仙台国際音楽コンクール ピアノ部門 
野平 一郎 審査委員長インタビュー

音楽ライター:高坂 はる香

インタビュー日:2025年6月29日

—モーツァルトのピアノ協奏曲が重要な課題曲となっていました。みなさんの演奏にどんな印象を持ちましたか?

 技術的に飛び抜けた方々なのはわかっていますから、そんな彼らにモーツァルトの音楽をちゃんと伝えてほしいという願いで設定した課題です。モーツァルトで唸らせることができれば、他のどんな大きな協奏曲を上手に弾いても敵いません。
 全体的にみなさんテンポが速いという印象はありました。速く弾かないと評価されないと感じるのかもしれませんが……一つ一つの音階にどれほどモーツァルトの考えが込められているか、もう少し緩いテンポで弾けば見えるものがあるはずです。
 モーツァルトの音楽はオペラですから、歌わなくてはいけません。オーケストラには歌えるテンポというものがあります。もっと聴いてほしいです。
 優勝したウクラインスカヤさんのモーツァルトは、時々速いと感じる部分はあっても、彼女の音楽性が充実していて、一つの世界を提示していました。特にK467はモーツァルトのカデンツァがなく、彼女は自作を弾きましたが、これが奇抜でご自身の考え方にフィットしており、おもしろかったです。この音楽を聴衆に届けたいという気持ちが感じられて、演奏中も楽しそうでした。

—2位のクリュチコさんの印象は?

 1位と2位は僅差でした。クリュチコさんはどのラウンドも納得の演奏で、特に予選のペトルーシュカは忘れ難く、審査委員みなを驚かせたと思います。またファイナルのラフマニノフ3番は、どの瞬間も音が優雅で、ロシア人の宗教性や神秘性など多面的な部分、音楽の魂を感じました。作品が持つ真の性格を描き出す、段違いの演奏でした。

—天野薫さんの3位入賞はセンセーショナルでした。どう評価されましたか?

 予備審査の時点では、私たちはその人の背景などの資料を見ずに審査をします。私も後から彼女が予備審査を通過したと知り、11歳が20歳前後の方々と同等に演奏できるのかと興味を持ちました。ただ年齢で特別視したくなかったので、結果発表直後の講評等ではあえて言及しませんでした。
 私は天野さんには、ご本人に合うものとそうでないレパートリーがあったように感じます。でもとにかく才能は感じました。セミファイナルのモーツァルトの協奏曲は仙台フィルとのバランスもよく、他の人たちよりピアノがよく聴こえていたくらいです。
 本選は矢代秋雄の協奏曲がかなり良かったです。日本人審査委員には演奏経験があり、他の先生方もスコアを見て審査していました。変拍子の多い作品だというのに、何の問題もなく演奏をしていました。
 国際コンクールという場で日本人作曲家の協奏曲がすばらしく演奏され、世界に配信されたことは、とても意味のあることです。

—才能を感じるというのは具体的にどんな点ですか?

 音楽がその場で生まれたかのように思えることです。音楽の感じ方が人並み外れているのでしょう。そういう演奏だと、聴き手の興味が最後まで続きます。
 またピアニストにとってどんな音を持つかはとても重要で、全体にそこを興味深く聴いていました。楽器の選択は重要なファクターだと感じましたね。

—ファイナルの課題の選択肢に日本人作品を追加する可能性は?

 それだけ特別に審査するわけにいきませんので、チャイコフスキーやラフマニノフと同等に審査できる作品があればいいのですが……国際的に知られる作曲家といえば武満ですが、短い作品なので、他に何かないか探しています。課題曲が広範囲になればおもしろいですね。

—過去の仙台国際音楽コンクール入賞者は優勝者以外も多く活躍しています。どうお感じですか?

 審査の方針に根本原則があるとは思いませんが、先生方を見ていると、本当に音楽的な人を選ぼうという意思を感じました。技術は優れていても音楽的に充実していない演奏を嫌う傾向にあり、とてもいいと思いましたね。音楽的な力がなくては、一時的に注目されてもその後が続きませんから。先生方には、真に音楽的な才能を見出すべく公平な審査をしてくださったことに感謝を申し上げました。

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