Sendai International Music Competition

第7回仙台国際音楽コンクール関連事業ソヌ・イエゴン ピアノリサイタルレポート | 仙台国際音楽コンクール公式サイト

コラム&レビュー

第7回仙台国際音楽コンクール関連事業
ソヌ・イエゴン ピアノリサイタルレポート

音楽ライター:高坂はる香

 今年5月、6月に開催の迫った、仙台国際音楽コンクール。ピアノとヴァイオリン、両部門合わせて過去最多となる467名の応募者を集め、去る2月中旬には、本大会への出場予定者84名のリストが発表された。
 若い演奏家たちにとって“良いコンクール”というものは、結果にかかわらず参加したこと自体が意義のある経験となる。課題曲を仕上げる中でレパートリーが広がること、ファンが増えること、世界からやってきた同世代の演奏家との交流など、その収穫はさまざまだ。
 中でも仙台国際音楽コンクールの場合は、協奏曲が課題曲の中心となっており、次のステージに進めば進むほど、若者たちが経験を積んでおきたいオーケストラとの共演を多く体験できる。最多で、ピアノ部門は、セミファイナル、ファイナルで合計3曲の協奏曲を演奏。ヴァイオリン部門については、予選から、セミファイナル、ファイナルで合計4曲の協奏曲を体験することになる。仙台フィルハーモニー管弦楽団、山形交響楽団というプロのオーケストラ、そして、広上淳一氏(ピアノ部門)、高関健氏(ヴァイオリン部門)という日本を代表する指揮者と共演できる。
 さらにヴァイオリン部門については、今回から、コンサートマスターとしてオーケストラ曲を演奏するステージがセミファイナルに導入される。ヴァイオリニストは、ソリストとしてはもちろん、コンサートマスターとして活躍することも輝かしいキャリアの一つの道。その能力を見極めるための課題が入った。内容は、ブラームスの交響曲第1番、R.シュトラウスの交響詩「ツァトゥストゥラはこう語った」、それぞれの指定箇所を演奏するというもの。若者たちの、これまでとは一味違った挑戦と奮闘を見ることができそうだ。

 

 仙台国際音楽コンクールの応募者が増加している理由は、前述のとおりのコンクールの特色に加えて、過去の入賞者たちが世界で飛躍を遂げていることにもあるといえる。
 その例は枚挙にいとまがないが、特に近年の例でいうと、アメリカのヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで、2回連続、過去の仙台コンクール優勝者が頂点に輝いたことが挙げられる。2013年にヴァディム・ホロデンコ(第4回仙台優勝者)が、そして記憶に新しい2017年に、前々回、第5回仙台の優勝者ソヌ・イェゴンが優勝。両者とも、アメリカを中心に多忙な演奏活動を行う人気ピアニストの仲間入りを果たした。

 

 1月27日、そんなソヌ・イェゴンによるピアノリサイタルが、宮城野区文化センターパトナホールで行われた。クライバーン優勝以来、初めてとなる仙台での公演。そのため、仙台コンクール当時から応援していたファンをはじめ、多くの方が会場を訪れていた。
 リサイタルは、グレインジャー「R.シュトラウスの《ばらの騎士》終幕から 愛の二重唱による散歩」で幕を開けた。この曲は彼が長らく十八番とし、クライバーンでも演奏して高く評価された作品。仙台でも、2013年の優勝者披露演奏会で1曲目に弾いているというので、仙台のファンにとっては懐かしい作品だろう。いくつもの声で甘いメロディを歌い分け、オペラ原曲ではオーケストラが奏す高音は、極めて繊細な輝かしい音で奏でる。久しぶりの再会を喜ぶ仙台の聴衆を、一気にロマンティックな気持ちにさせたに違いない。
 後半は、近年ドイツで学ぶソヌの本領が発揮されるブラームスのピアノソナタ第2番。高い技巧を生かして、重厚なブラームスの音をホールいっぱいに響かせる。作曲家の若い情熱があらわになるような作品の中で、冷静さを保ちながら、しかし十分に情感の込められた表現を披露した。
 リストのハンガリー狂詩曲第12番の華やかな音楽で会場を盛り上げたあと、本プログラムの最後に演奏したのは、2017年クライバーンの新曲課題曲で、同コンクールの審査委員も務めたマルカンドレ・アムランが手がけた、トッカータ「武装した人」。ソヌならではの密度の濃く透き通った音が楽曲の持つ疾走感とよく合い、古いものが再び新しい姿で蘇るきらめきを感じる演奏だった。
 サイン会には、仙台コンクール以来応援していた多くのファンが参加して、ソヌに言葉をかけていた。今年の仙台コンクールからも、こうして長く愛され、世界で飛躍する才能が誕生するかもしれない。開催を楽しみに待ちたい。

《このコラム&レビューは仙台国際音楽コンクールニュースレター2019年3月号に掲載されたものです》

 

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