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コラム&レビュー

チェ・ヒョンロク(第7回ピアノ部⾨優勝)
仙台フィルハーモニー管弦楽団第333回定期演奏会 演奏レポート

2020年1⽉25⽇
演奏曲⽬/ベートーヴェン︓ピアノ協奏曲第2番 変ロ⻑調 作品19
会場/⽇⽴システムズホール仙台 コンサートホール

⾳楽ジャーナリスト:正⽊ 裕美

1⽉24、25⽇の2⽇間にわたり、チェ・ヒョンロクが仙台フィルハーモニー管弦楽団の定期公演にソリストとして出演した。コンクール以来初の仙台におけるこの公演で、チェはベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番を披露。作品に多分に含まれるモーツァルト的な要素をより引き⽴たせる演奏で、パッセージひとつひとつの魅⼒を紐解くように丁寧にアンサンブルを作り上げていた(1⽉25⽇・⽇⽴システムズホール仙台)。

響きに敏感なチェらしく、第1楽章は伸びの良い⾳⾊で訥々(とつとつ)と語りかけるような出だしで始まり、オーケストラと繰り返される親密な対話はアンサンブルの喜びにあふれていた。これまで聴いた印象から、チェはソリストとして⾃分の⾳楽や個性をオーケストラや聴き⼿に⼀⽅的にアピールするのではなく、ピアノとオーケストラの”協奏”の中⼼となって、丁寧な対話を繰り返していくタイプだ。さらに対話の中にも常に作品への真摯な視点が表れており、フレーズひとつひとつに細かいデュナーミクを施し、また常に⾳⾊への気配りを⽋かさない。それはこの第2楽章でも同様で、ペダルを極めて⻑めに⽤いて余韻を響かせながら、ホール上部から舞い降りるかのような柔らかな響きで魅了していた。またオーケストラもこれに応え、同質の響きを渡し合っていたのが印象に残る。

⼀転してリズミカルな第3楽章では、チャーミングで⻭切れの良い演奏。ソプラノのコロラトゥーラのような軽やかな⾳⾊も⼼地よい。短い主題とエピソード部分を次から次へと受け渡すロンド形式ならではの魅⼒は、チェとオーケストラとの息の合った掛け合いでより映え、躍動感に溢れた。

演奏からは⼀貫して、今⾃分が表現しているパッセージにおいて何をどう聴き⼿に聴かせたいのか、何を届けたいのか、というこだわりが感じられた。それは、⾮常に繊細なデュナーミクやフレーズのまとめ⽅、楽章やパッセージごとに弾き分けるさまざまな⾳⾊など、けっして⼤仰にアピールするわけではないが、彼が持つセンスや技術に裏打ちされている。第3楽章などはもっと積極的に前に出ても良いように感じる部分もなくはなかったが、コンクール本選で聴いたチャイコフスキーを思えば、それができないのではないことは明らかだ。それよりもオーケストラとの掛け合いを通じて、ベートーヴェンの協奏曲の中でもより朗らかで⾃由度が⾼く、アンサンブルの親密度の⾼いこの作品の魅⼒を伝えようという、彼なりの解釈だったのだろう。こうして常に作品の本質を考え真摯に向き合う姿勢は、忘れられがちだが、ピアニストに必要不可⽋ではないだろうか。

なお、この⽇のアンコールは、リストの「ラ・カンパネラ」だった。あとで本⼈に訊くと当⽇突如思い⽴ったそうで、前⽇のアンコール曲とは異なる。超絶技巧で知られるこの作品の選択を意外に思ったが、チェの演奏は⼀味違った。過度に激情的な表現もなく、⽿をつんざくような凄まじい鐘の⾳もない。憂いを湛えつつも終始温かみすら感じられる⾳⾊で、過度に⼒んだ表現がない分、テーマにさまざまに施された細かい装飾表現がクリアに⽿に届いた。また、広範囲の⼿の移動やときには素早い15度の跳躍があるにも関わらず、まったく意に介さずに落ち着いて繊細な表現に努めていたのも印象深い。考えてみれば「ラ・カンパネラ」のイタリア語訳は「⼩さな鐘」。なるほど、鐘の⾳を繊細に多様な⾳で表したチェの解釈もまたひとつなのだ、と合点がいった。

《このレビューは仙台国際音楽コンクールニュースレター2020年3月号に掲載されました》

 

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