Sendai International Music Competition

第8回コンクール評① | 仙台国際音楽コンクール公式サイト

コラム&レビュー

第8回コンクール評①

レヴェル高く、個性あふれる

音楽評論家:梅津 時比古

 コロナ・パンデミック、ロシアによるウクライナへの侵攻の渦中に開催された第8回仙台国際音楽コンクールは、開催前に運営委員長のピアニスト、野島稔氏が逝去する悲しい出来事もあった。傑出した演奏家の氏は、若い人を育てることにどのように寄与できるか常に考えてもいた。その精神はコンクール等を通して、深く浸透していたと思われる。

 ヴァイオリン部門は6人がファイナルに残った。課題はコンチェルト2曲。1曲はモーツァルトの5曲から選び、もう1曲はベートーヴェンからショスタコーヴィチまでの15曲から選ぶ。共演は広上淳一指揮仙台フィルハーモニー管弦楽団。

 初日は4人が登場(6月2日、日立システムズホール仙台)。

 まず中村友希乃がモーツァルトのイ長調K219。1楽章冒頭の静謐な音と、カデンツァ(フランコ・グッリ)に聴かせた音楽性に彼女の高い可能性が感じられる。全体に過剰な表現がないのも快い。緊張故か細かな音を完璧に弾けている訳ではなかったのは惜しい。高音の伸びも欲しかった。続いて中野りなもK219。1楽章の細かい音の粒がすべて歌っている。ボーイングスピードと曲想がこまかやかに対応し、音楽が息づく。高音で輝かしい抒情を見せた2楽章も見事。カデンツァ(ヨアヒム)で聴かせた構成力もこの人の魅力だろう。3楽章も粋に跳ね、古典が古典のなかに収束しない。フレージングが一回ごとに違うのも印象的であった。

 一転してホン・ソンラン(韓国)はプロコフィエフ2番。1楽章は高音と低音の音質を変え、独特の形をあぶり出す。2楽章はリズムのツボを押さえながら十分に歌いきり、3楽章は面白いように構造が浮かび上がる。最後のデニス・ガサノフ(ロシア)はショスタコーヴィチ1番。1楽章冒頭を弾きだしたガサノフの音は極めて内省的で、音量が無いにもかかわらず会場の雰囲気をがらりと変えた。自分の内に耳を傾けるだけではなく、オーケストラをもよく聴いており、ヴァイオリンの音型をオーケストラに綺麗に入れる。パッサカリアから終楽章にかけては、うるおいを含んだ心理的な音から内面の爆発へと、即興性も交えて聴き手を惹きつけた。

 第2日(6月3日)はマー・ティェンヨウ(中国)から。モーツァルトのニ長調K218。線の細い音のつくりで、2楽章から本領を発揮し、ロバート・レヴィンのカデンツァをも含めて品性のある音で高らかに歌った。3楽章もリズムを独特に活かして面白い。続く橘和美優はK219。彼女は、いわば日本人の良さを具えたモーツァルトを聴かせていた。強烈な個性は無いが、音程も正しいし、あまり欠点は見られない。フランコ・グッリのカデンツァがやや平べったく感じられた。

 後半からは2曲目の協奏曲に入り、中村がブラームス。1楽章で事故があったが、彼女自身、必死に音を探って戻ろうとしていたので、周りでなんとか助けられなかっただろうか。その後は逆に落ち着いて2楽章は抒情性も十分、フレージングも魅力的であった。最後は中野のバルトーク2番。テクニック的にも音楽的にも万全で、この10代の女性がオーケストラをも完全に指揮していた。2楽章は短く切るフレージングが特徴的で、音楽が横溢。もしあえて求めるならば更なる神秘感だろうか。3楽章はボーイング、左手ともに完璧で、リズムも体内化し、あたかも憑依したかのように鬼気迫る。全体として、表現をつくした底に作曲家の世界が深く立ちあらわれてきた。

 最終日(6月4日)はソンランのK219から。伴奏に回ったときも音楽的で、オーケストラから彼女の音楽を引きだす。淡々としたテンポを失わずに歌い切った2楽章で、明るい美音のなかに、翳りを見せていたことも忘れられない。3楽章のリズム、フレージングも粋を極めていた。カデンツァはロバート・レヴィン。ガサノフはK218。彼が最もオーケストラと対話していたと言えよう。特にコンサートミストレス神谷未穂との対話が音楽を形作る。1、3楽章のカデンツァは聴いたことがなかったが、主題との華やかな会話に満ちて心地よく深く伝わってきた。あとで事務局に調べてもらったところ、自作とのこと(2楽章はロバート・レヴィン)。

 ティェンヨウはシベリウス。この曲の音程は至難。彼は全体として抒情面にポイントを置いていたが、やや自己陶酔に近くテンポも揺らすので、オーケストラと合わないところも散見された。最後の橘和はサン=サーンス3番。冒頭のG線の音程がうまくはまらなかったが、2楽章は一転、軽やかに優美を極めて歌い、フラジオレットもうまくいった。3楽章冒頭の和音も、毅然として美しい。そのあともリズムが音楽になり、粋も具えていた。

 各々の協奏曲に対応したオーケストラの労を称えたい。

 審査結果1位の中野は誰が聴いても文句はないだろう。個人的な心情としては、能力の低い楽器で精神の集中した音楽を聴かせたガサノフに特別賞をあげたいのと、個性を音楽に自然に溶け込ませたソンランに、もう少し上位をあげたかった。

コラム&レビュー一覧