コラム&レビュー
第8回コンクール評③
音楽学者:西原 稔
第8回仙台国際音楽コンクールは、日立システムズホール仙台を会場として5月21日から6月5日はヴァイオリン、6月11日から6月26日はピアノの審査と入賞者記念ガラコンサートが行われた。筆者はピアノ部門の6月23日から26日の日程を拝聴した。ピアノ部門は37の国と地域から438名の応募者があり、そのうち31名が出場した。このことはこのコンクールがまさに世界に開かれていることを物語っている。
ファイナルでは古典派のレパートリーから1曲と後期ロマン派から近代にかけてのレパートリーから1曲の計2曲が演奏された。初日はジョンファン・キムがベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第3番」、ルゥォ・ジャチンがモーツァルトの「ピアノ協奏曲 ハ長調」、キム・ソンヒョンがベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第5番」、太田糸音がプロコフィエフの「ピアノ協奏曲第3番」を演奏した。翌24日はヨナス・アウミラーがベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第3番」、ジョージ・ハリオノが同じ「ピアノ協奏曲第3番」、ジョンファン・キムがラフマニノフの「ピアノ協奏曲第3番」、ルゥォ・ジャチンがプロコフィエフの「ピアノ協奏曲第2番」を演奏した。25日はキム・ソンヒョンがモーツァルトの「ピアノ協奏曲 ニ短調」、太田糸音がモーツァルトの「ピアノ協奏曲 ハ短調」、ヨナス・アウミラーがブラームスの「ピアノ協奏曲第1番」、ジョージ・ハリオノがチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第1番」をそれぞれ演奏した。
同日の午後7時半より審査結果が発表された。発表に先立って運営委員長をつとめてこられ、今年の5月9日に逝去された野島稔氏に黙祷を捧げた。その後、急きょ審査委員に加わった運営副委員長の植田克己氏の挨拶の後、運営委員長の野平一郎氏より全体の講評と審査結果の発表が行われた。その中で野平氏は全体のレヴェルが非常に高かったこと、このコンクールがこれからのピアノの可能性を示したことを評価し、このコンクールの実現には仙台フィルハーモニー管弦楽団と指揮者の高関健氏の協力と尽力に感謝の言葉が述べられた。
審査の結果、第1位はニュー・イングランド音楽院在学の中国のルゥォ・ジャチン、第2はクリーヴランド音楽院修士課程修了のドイツのヨナス・アウミラー、第3位はベルリン芸術大学大学院在学の日本の太田糸音、第4位はハンス・アイスラー音楽大学在学のドイツのジョンファン・キム、第5位はニュー・イングランド音楽院在学の韓国のキム・ソンヒョン、第6位は英国王立音楽院卒のイギリスのジョージ・ハリオノであった。この6名のほかに、審査委員奨励賞として神原雅治、聴衆賞としてヨナス・アウミラー、ジョンファン・キム、キム・ソンヒョンが発表された。
この結果発表の後、同ホール3階に会場を移して記者会見が行われた。植田運営副委員長、野平審査委員長、海老彰子審査副委員長、ジャック・ルヴィエ審査副委員長のコメントののち、ファイナルに臨んだこの6名への質疑応答が行われた。6名のファイナリストについての演奏評価に関する質問に対し、野平氏より予選から本選までの6名の評価は変わらなかったこと、海老氏より音楽の感性はさまざまであることが語られた。
翌26日12時半より2階研修室にて、野平氏による審査委員長への合同取材が行われた。冒頭、ファイナルの6名はどのかたも素晴らしい実力の持ち主で、卓越した演奏技巧と表現力を兼ね備えていたと総評を述べ、続いて予選段階からファイナルまでのすべての演奏を審査したうえでの総合的な評価がこの順位となったのではないか、応募者が非常に多かったがゆえに、ファイナルへと進めないもったいない逸材もいた、そしてファイナルの6名とも高レヴェルぞろいで、厳しい審査であったことなどを披瀝した。
同日、入賞者上位3名によるガラコンサートがコンサート・ホールで行われ、その後、郡和子仙台市長、市議会議長の挨拶に続いて、優勝者によるあいさつがなされ、このコンクール開催に大きな力添えとなったボランティアなどの関係者を交えての記念撮影が行われた。
この撮影の後、2階研修室にて第1位を受賞したルゥォ・ジャチンへの記者会見が行われた。そのなかで、なぜこのコンクールに応募したのかとの質問に、「オーケストラと共に演奏できること」を述べ、「オーケストラとの共演が楽しかった」、「プロコフィエフの作品をオーケストラと一緒に2度も弾くことができてよかった」と答えていた。また「優勝できると思っていなかったので、これからのことは学校に戻ってから考えます」と謙虚に答えていた。さらに師のダン・タイ・ソンのもとでのレッスンについての質問では、「広い視野をもつことや美しい音、音楽にあった音づくり」を指導されている旨を答えた。また、「ダン・タイ・ソンの演奏とは異なる演奏であるが」との質問には、「ダン・タイ・ソンはまず、個性を尊重してくれる」と答えていた。集まった音楽記者の質問へのジャチンの受け答えは自然で飾り気がなく、好印象を受けた。
このコンクールは仙台市と市民、そして仙台フィルハーモニー管弦楽団が一体となった見事なハーモニーを実感した。きわめて高度な演奏水準を誇るこのコンクールは日本の海外への発信の場となっており、これからの発展がますます期待される。