Sendai International Music Competition

第7回仙台国際音楽コンクール ピアノ部門 野島 稔 審査委員長インタビュー | 仙台国際音楽コンクール公式サイト

インタビュー

第7回仙台国際音楽コンクール ピアノ部門 
野島 稔 審査委員長インタビュー

音楽ライター:高坂 はる香

野島審査委員長

入賞者それぞれの印象をお聞かせください。

 優勝したチェ・ヒョンロクさんは、全ラウンドで安定していました。また、ファイナルでモーツァルトと自由選択の協奏曲、両方を高いレベルで演奏したことも評価のポイントだったと思います。オーケストラとの共演経験もあまりない中、信念を持ち、それをそのまま舞台で弾くことができるのは、才能だと思います。
 ピアニストとして自立するためには、一曲すばらしく弾けても十分ではありません。協奏曲はオーケストラの要望で曲が決まることも多いからです。世界が狭いと、プロとして活動していくことはできません。
 第2位のフェンウィクさんは、魅力的な才能の持ち主です。特にチャイコフスキーの協奏曲は、音楽の掴み方のスケールが大きく、東洋人にはこういう弾き方はできないと感じました。クライバーンの演奏が好きだと話していましたが、実際聴きながらちょっと似ていると思いましたね。一方のモーツァルトも良かったけれど、少し枠をはみ出すようなところがあったかなと思います。持ち味を生かし、場数を踏むことで、大きく成長するでしょう。
 第3位のパルホーメンコさんは、音も非常に良く、ベートーヴェンの4番を魅力的に演奏しました。ただモーツァルトは、世界に浸りきれていないのではと感じる部分もありました。彼女が好きなプログラムでリサイタルをするときには、ぜひ聴きに行きたいピアニストです。
 第4位の佐藤元洋さんは、素直な音楽が魅力で、特にベートーヴェンの3番は、落ち着きを持って、聴衆に音楽の偉大さがわかる演奏をしました。いろいろな才能を持っているので、これからじっくり勉強を重ねることで格段に良くなっていくでしょう。
 第5位の平間今日志郎さんは、音楽に特色があり、自分の演奏を楽しんでいることが伝わってきて、その表現が曲想にハマった時は非常に魅力的に響いていました。平均点を取りにいくことなく、臆さず自分の音楽を表現する、日本人にあまりいないタイプですね。将来が楽しみです。
 第6位のキム・ジュンヒョンさんは、予選から良い演奏をしていました。フレーズの歌わせ方に特徴があるので、評価が分かれたかもしれません。でもモーツァルトのK459は彼の個性によく合い、生き生きと弾いていました。

審査において、意見が割れるようなことはありませんでしたか?

 審査結果は完全に点数で出されますので、システム上、議論が起きることはありません。ファイナルで順位を決める投票でも、何段階にもわけて投票をし直すようなケースはほとんどありませんでした。

韓国のピアニストの優勝は3回連続となります。韓国の教育やピアニストの特徴について感じることはありますか?

 韓国のピアノ教育事情について詳しいことはわかりませんが、ピアニストたちからは、強さを感じます。音楽的に成熟してきたことで、国内の競争も激しいのかもしれません。
 特に協奏曲では、ソリストが自分の音楽をオーケストラと指揮者に伝えなくてはなりません。また音量や音質も、ボディのしっかりしたオーケストラの音に合わせて、存在感を伴った形でコントロールする必要があります。リハーサルを経て、本番で瞬時にそういった状況に対応するには、精神的なタフさが求められます。少しでも臆してしまうと、それが音に現れてしまいますから。その点で、韓国のピアニストは強いと思いました。音楽への入り込み方が強烈で、表現意欲が高く、その耐久性もあるように感じます。

今回の開催を終えてのご感想をお願いします。

 20年近く審査委員長としてこのコンクールを見てくる中、回を重ねるごとに、階段を1段どころか2、3段ずつ駆け上がっていくようにレベルが上がり、応募者も増えました。その分、予備審査から僅差で合否の差が出るため、審査は大変でした。
 また、前回からピアニストにとって大切なレパートリーであるベートーヴェンとモーツァルトの協奏曲が必須課題となっていますが、これは各国の審査委員の先生方からも好評で、実際、コンクールを格調高く充実したものにしていると思います。こうしたレパートリーを若いうちに真摯に勉強しておくことは重要だと、私自身実感しています。コンテスタントたちも実際、リハーサルと本番を経験する中、新しい世界を見ることができたと話していました。何かを得たという実感があったのでしょう。大変嬉しいことだと思います。

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