インタビュー
第3回仙台国際音楽コンクールヴァイオリン部門優勝
アリョーナ・バーエワさん インタビュー
インタビュアー・文:片桐 卓也(音楽ライター)
インタビュー日:2014年5月17日
アリョーナ・バーエワは2007年に行われた第3回仙台国際音楽コンクールのヴァイオリン部門で優勝した。コンクール後はヨーロッパ各地で活発な演奏活動を行っている。2014年2月には、ロシアの巨匠ゲルギエフ、マリインスキー劇場管弦楽団とパリのサル・プレイエルに出演し、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第2番を演奏した。またソロのリサイタル、室内楽の演奏会も数多い。この5月に仙台フィルハーモニー管弦楽団の第282回定期演奏会に出演するために、久しぶりに仙台を訪れた彼女に、現在の活動、仙台の思い出、そして仙台国際音楽コンクールにこれから出場しようとする若い演奏家へのアドヴァイスなどを聞いてみた。
久しぶりに仙台で演奏なさいましたね。
「仙台の聴衆は、いつも温かく迎えてくれて、熱心に演奏を聴いてくれます。その印象はコンクールの時から変わらないものです。」
震災後に日立システムズホール仙台(青年文化センター)で演奏されるのは初めてだと思います。2012年夏には改修もされていますが、その印象はいかがでしたか?
「コンクールの時と較べると、コンサートホールの音響はより良くなったと感じました。それにしても、あのような大きな災害の後でみんなが一致団結してそれに立ち向かう姿は、本当に素晴らしいものだと感じました。」
バーエワさんも、震災直後(2011年5月)にバシュメット、モスクワ・ソロイスツとの共演で来日された時に、仙台までかけつけて、街頭で演奏をされたそうですね。
「仙台の人たちのために何かをしたいという気持ちが強かったので、自分としては当然の行動だったと思います。」
さて、今回は仙台フィルハーモニー管弦楽団との共演でしたが、指揮者の山田和樹さんとは以前からお知り合いだったとか。
「そうです。小澤征爾さんがスイスで開催している“スイス国際アカデミー”で知り合いました。そのアカデミーでは室内楽も、またオーケストラの演奏もあるのですが、山田さんはオーケストラの指揮を担当されていていたのです。今回の仙台での共演も、そこから始まったと言えるでしょう。山田さんは素晴らしい指揮者で、彼とはまた共演したいと話しています。」
小澤さんのアカデミーに参加されたのは何年からですか?
「たしか2007年の夏からで、それ以後ずっと参加しています。小澤さんの指揮でチャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」を演奏した時は、私がコンサートマスターを担当しました。とても素晴らしい体験でした。」
そうすると、2007年にはたくさんのことが起ったのですね。仙台のコンクールで優勝し、小澤さんと出会った。
「いま思い返すと、本当にそうですね。そういえば、ヴァディム・ホロデンコさんとリサイタルで共演するようになったのも2007年でした。モスクワ音楽院の先生から紹介されたことがきっかけで、彼と共演するようになったのです。」
ホロデンコさんも仙台で2010年に優勝し、その後ヴァン・クライバーン国際コンクールでも優勝されて、大活躍ですね。
「彼はいまアメリカを中心に活動していますが、リサイタルはいまでも彼と一緒に演奏していますので、コンタクトはずっと取っていますよ。」
仙台のコンクールの出身者たちは各地で活躍していますね。アンドレアス・ヤンケさん(第2回のヴァイオリン部門第4位)は現在チューリヒ・トーンハレ管弦楽団のコンサートマスターとなっています。
「2007年のコンクールの時に、ヴァイオリンで第2位となったエリン・キーフさんは、アメリカのミネソタ管弦楽団のコンサートマスターに就任しました。一緒にコンクールに出場した人々の活躍には今でも関心を持っています。」
今回の演奏会で、ひとつ気になった事を伺います。ゲルギエフさんとの共演の時も、仙台フィルとの共演の時も、楽譜を持参して、それを見ながら演奏されていましたが、何か特別な理由はあるのですか?
「楽譜は完全に暗譜しているので、本来は必要ないのですが、演奏中に、時々そこで何が起っているのか、どんな指示が書かれていたのかを知りたくなることがあるのです。それでいちおう楽譜を置いて演奏することにしています。記憶が心配だからではありませんよ。」
もうひとつ余計なことを。ゲルギエフさんは指揮する時に、とても短いスティックのような棒を使って指揮されていますね。
「はい。日本で言えば爪楊枝のような感じの短いスティックで指揮されていましたね。楽団員の方は、だんだん長くなるのだ、とおっしゃっていましたが。マエストロに理由を尋ねたことはないのですが、個人的な想像では、オーケストラのメンバーの注意力をより集めたい時に、とても短いスティックを使っているような気がします。」
ありがとうございました。ところで、2016年には第6回のコンクールが開催されるのですが、コンクールに出場しようとする方へのアドヴァイスは何かありますか?
「とにかくコンクールを楽しんでください。コンクールに結果は付き物ですが、それを最初から気にせず、まず演奏を楽しもうと考えることが大事だと思います。その上で、コンクールに出場する前の準備にたくさんの時間を使ってください。コンクールはその準備が最も重要で、その準備が上手くできれば、コンクールでもきっと上手く行くと思います。」
仙台で行われるコンクール、その魅力は?
「仙台の豊かな自然、コンクール事務局やボランティアの方々の対応、しっかりした組織も印象的でした。またそして会場にいらっしゃる多くの聴衆の温かさも記憶に残っています。
そして、私にとって初めての訪日、それが2007年の仙台のコンクールだったのです。仙台に着いてから、ホテルの近くにあるお寿司屋さんに1日に3回も行ってしまいました。私にとって最初に印象的だったのは日本の食べ物でした。それ以降、日本食への関心も高まり、特に抹茶に関心を持つようになりました。ところが抹茶はなかなかロシアでは手に入りませんし、また抹茶アイスが大好きなのですが、これはヨーロッパでは見つからないのです。いつもいろいろな街で探しているのですが。それがとても残念。」
今後の予定としては、演奏活動もたくさんありますが、今秋行われるロン=ティボー国際音楽コンクール(パリ)で審査員をなさるのですね。
「はい。私にとって初めての審査員の体験となります。」
審査員も大変だと思いますが、パリに行けば、きっと抹茶アイスは見つかると思いますよ。日本食品を扱う店も多いので。
「パリに行った時に探してみます。ありがとう!」
コンクール優勝直後に取材して以来、久しぶりにバーエワに話を聞いた。ポジティブで、どんな質問にも丁寧に答えてくれる姿勢は、7年前と変わらなかった。現在は忙しい演奏家であり、同時に母親でもある彼女。これからも各地で演奏活動を続けながら、音楽家としてより大きく成長して行くことだろう。
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