Sendai International Music Competition

第8回仙台国際音楽コンクール ピアノ部門 野平 一郎 審査委員長インタビュー | 仙台国際音楽コンクール公式サイト

インタビュー

第8回仙台国際音楽コンクール ピアノ部門 
野平 一郎 審査委員長インタビュー

音楽評論家:萩谷 由喜子

インタビュー日:2022年6月26日

入賞者6名についてお話しください。

 第1位のルゥォ・ジャチンさんは予選からファイナルの3つの審査段階を通じて、すべてに安定して高い水準を示しました。予選のシューマンのソナタ第1番も雄大でよかったし、『美しき青きドナウ』のパラフレーズは超絶技巧の曲なのに、それをひけらかすことがなくとても自然で、皆が楽しめたのはとても凄いことです。セミファイナルのベートーヴェンの第2番、ファイナルのモーツァルトのハ長調とプロコフィエフの第2番、どれもよい演奏で、今回の中でもっとも完成度の高いピアニストでした。
 第2位のヨナス・アウミラーさんはファイナルで弾いたブラームスの第1番が素晴らしかった。また予選のスクリャービンの『幻想曲』とシューマンの『プレスト・パッショナート』、バッハの『トッカータ』それから『火の鳥』もよかったし、特にストラヴィンスキーは白眉だったと思います。少々曲によって凹凸がありましたが、個性的なピアニストでした。
 第3位の太田糸音さんは、予選のメンデルスゾーンの『スコットランド・ソナタ』が本当によかった。完全に適応・同化した初期ロマン派のスタイルに比べ、現代のプロコフィエフの『4つの練習曲』がやや一本調子で、ファイナルの同じプロコフィエフに不安を感じさせました。ところが、ファイナルのプロコフィエフの協奏曲第3番は予選での心配を覆す見事な演奏で、表現と音のバランスが完全に一致していました。
 第4位のジョンファン・キムさんは、音楽的な面とテクニックを併せ持つピアニストで、内面的に深いものを持っています。ファイナルのラフマニノフの第3番はピアノ演奏技術の極限の可能性を示していました。
 第5位のキム・ソンヒョンさんですが、ひょっとして想像に過ぎませんが外野の意見をききすぎて、ファイナル時に迷いが出てしまったのかも知れません。予選の『ショパンの主題による変奏曲』はとても素晴らしかったし、セミファイナルまでは彼の考えた強弱の可能性をよく示していました。ところが、ファイナルの『皇帝』では少々頑張り過ぎてしまったのがとても残念でした。
 第6位のジョージ・ハリオノさんは、すでに素晴らしいピアニストで聴衆へのアピール度も大きいものがありました。予選のベートーヴェンのソナタ第18番、ラヴェルの『海原の小舟』、ストラヴィンスキーの『ペトルーシュカからの3楽章』は性格の異なる3曲をよく弾き分けていました。特にペトルーシュカは彼の技術的な可能性を最大限に見せてくれましたし、大変効果的な音楽作りが余裕を持ってできてしまう才能の持ち主。もう一つ音そのものに、魅力がほしいと思いました。

ヨナス・アウミラーさんが第2位に終わった理由は?

 ファイナルのブラームス第1番はオーケストラとピアノがよく対話して親和力に満ち、素晴らしい演奏でした。ただ音楽によっては彼の持つ極端な弱音や強音などが、うまく機能しない場合もあったのではないでしょうか。例えばベートーヴェンの第3番ですが、アウミラーさんが舞台上で考えたダイナミクス・プランが少々作品に対して人工的に感じましたし、こうした極端な強弱の弾き方にベートーヴェンとの距離を感じました。

同位同列につけることはありますか?

 仙台の審査規程は明快な点数システムで、点数が全く同点になった場合は同位同列があり得ますが、今回のファイナルでは同点のコンテスタントはいませんでした。

ファイナルの選択肢の一つに、矢代秋雄の協奏曲が入っていますが、これを加えたのは野平審査委員長でしょうか?

 そうです。コンクール開催国の作曲家の作品を国際的に知ってもらうためには、まずは課題曲リストに入っていて、どんな曲なのだろうと興味を持ってもらうことが大切だからです。外国人のピアニストで選んだ方がお一人いらっしゃいましたが、残念ながら予備審査を通過することはできませんでした。

ショパンのエチュードのようなテクニックをみるための曲が課されていませんが、その意義は?

 今は一人一人が素晴らしい技術や個性をお持ちで、早晩ショパンのエチュードのテクニックで選別していくようなコンクールは意味のない時代がやってくるでしょう。むしろ伝統的な作品を含めて、レパートリーの適応力が問われる時代なのです。

レパートリーを広げるにはどうしたらよいでしょうか?

 一人一人がレパートリーに対して興味を持ち、自分で広げていこうとする意識を持つことが重要です。今はレパートリーの転換期で、今回のコンクールでも第二次大戦後の曲がいくつか見られました。今の若い人たちにしたら、モーツァルト、ベートーヴェンはすごく昔の音楽になりつつありますが、何を弾くにせよただ伝統的解釈を引き継ぐだけではなく、本人がその曲のスタイルをこうだ、と今まさに考えていることがきちんと伝わる演奏であってほしいと思っています。

高関健マエストロと仙台フィルについて一言お願いします。

 どんどん先へ行こうとしてリズムが不安定になりがちな若いコンテスタントに、素晴らしいサポートで支えていただきました。感謝しかありません。

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