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第7回仙台国際音楽コンクール
ヴァイオリン部門課題曲 解説

音楽評論家:山田 治生

 第7回仙台国際音楽コンクールのヴァイオリン部門では、予選、セミファイナル、ファイナルを通じて、バロックから古典、ロマン派、近現代作品までの作品が課せられる(最も古い作品は1720年頃に書かれたバッハの協奏曲であり、最も新しい作品は1939年に初演されたバルトークのヴァイオリン協奏曲第2番)。従って、出場者は、200年以上にわたるヴァイオリン作品のそれぞれの時代様式に合った演奏を問われることになる。
 予選のバッハのヴァイオリン協奏曲第1番または第2番では、バロック音楽をどう演奏するのかが課題となる。近年ますます広がりつつある古楽的なアプローチをどのように取り入れるかも重要なポイントとなるであろう。また、バッハの協奏曲では、指揮者無しなので、自らオーケストラをリードしなければならない。ヴァイオリンの技巧だけでなく、音楽的リーダーとしての資質も試される。
 イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタは、彼の晩年の作品。1923年、若きヨーゼフ・シゲティの弾くバッハの無伴奏ソナタの演奏にインスピレーションを受けたイザイが6曲一気に書き上げた。予選では、そのうち第3番、第5番、第6番のなかから1曲を選択して弾かなければならない。「バラード」のタイトルを持つ第3番と第6番は単一楽章の7分程度の曲。第5番は「オーロラ」と「田舎の踊り」という2つの楽章からなる10分程度の曲である。イザイ自身が19世紀後半から20世紀前半にかけての時代を代表するヴィルトゥオーゾの一人であっただけに、近代的なヴァイオリン奏法の粋が試される曲といえる。
 セミファイナルでは、まず、20世紀前半に書かれたヴァイオリン協奏曲が課題となっている。ストラヴィンスキー、プロコフィエフ、バルトーク、まさに20世紀を代表する作曲家たちの傑作。ヴァイオリン独奏とオーケストラの絡みが、それよりも前の時代の協奏曲よりも複雑となり、オーケストラとの緻密なアンサンブルなしには演奏が成り立たない。
 ストラヴィンスキーの協奏曲は、第6回仙台国際音楽コンクールの優勝者、チャン・ユジンがファイナルで弾いた曲なので、印象に残っている仙台の音楽ファンも多いであろう。バロック音楽の合奏協奏曲を20世紀に蘇らせたような擬古典的作品。オーケストラとの合奏能力も問われる。プロコフィエフの協奏曲第1番は、ヴァイオリンの抒情性が際立つ作品。どのようにヴァイオリンで歌うのか、演奏者の腕の見せどころである。第2楽章ヴィヴァーチッシモのスケルツォでは非常に速いパッセージを弾かなければならない。バルトークは、協奏曲第2番でハンガリーの民俗的な要素も踏まえながら、第1楽章で微分音(四分音)を用いるなどそれまでにない作曲技法を取り入れたりもした。
 セミファイナルで、ブラームスの交響曲第1番第2楽章とR.シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはこう語った」の指定箇所をコンサートマスターの席で演奏する(仙台フィルのコンサートマスターが隣に座る)ことがもう一つの課題となっているのも、とてもユニークである。どちらも、コンサートマスターがソロで大活躍する作品として有名。ブラームスの交響曲第1番ではホルンやオーボエとの室内楽的なアンサンブルも重要になるであろう。R.シュトラウスの豊麗な管弦楽法で知られる「ツァラトゥストラはこう語った」では、オーケストラの楽器のすべての動きを理解していないと、コンサートマスターのソロはうまく弾けないに違いない。最大の見せ場は、独奏ヴァイオリンがワルツを踊る「舞踏の歌」の箇所であろうか。かなりの技量が要求される。堀米ゆず子審査委員長は「大きなソロなので、ソロイスティックに弾いてもらいたい」と述べていたが、ソリストとしての資質だけでなく、コンサートマスター(ひいてはオーケストラ・プレイヤー)としての資質も問われることになろう。
 ファイナルでは、まず、モーツァルトの5つの協奏曲のどれかを弾かなければならない。5つの協奏曲は、どれもモーツァルトが10代のときに書いた。その頃、モーツァルトはザルツブルクの宮廷オーケストラでコンサートマスターをしていたのであった。5つのなかで、第5番は、第3楽章中間部のエキゾチックで荒々しい音楽ゆえに「トルコ風」のニックネームで親しまれている。
 堀米委員長は、モーツァルト演奏について、かつてシャンドル・ヴェーグから教わったように、「グラツィオーソ(優美に)、リゾルート(きっぱりと)、カンタービレ(歌うように)」の3つの要素が大事だ、という。そして音楽の変化が速いゆえに、「モーツァルトは、思いがけない落とし穴があるから怖ろしい」とも述べる。やはり、古典派としての演奏様式も問われるに違いない。
 そして最後に、ベートーヴェンからシベリウスまでのヴァイオリニスト必須のレパートリーというべき有名協奏曲からの1曲が課せられている。なかでも1937年に蘇演されまだまだ演奏される機会の少ないシューマンの協奏曲が入っているのが仙台国際音楽コンクールらしい。というのも前回のセミファイナルで必須曲として課せられていたからである。オーケストラにとっても滅多に演奏することのないレパートリーであるが、前回、セミファイナルだけでも12回、同曲を演奏した仙台フィルなら、安心だ。ブルッフが有名な協奏曲第1番ではなく、「スコットランド幻想曲」が候補曲となっていることにも注目。ハープが活躍する曲でもある。
 若いヴァイオリニストの様々な才能を見出すために、課題曲を一つに限定せず、できる限り広い選択肢が用意されていることは、出場者にとっても、聴衆にとってもいいことである。ただし、それが可能なのは、ヴァイオリンの名手でもある百戦錬磨の高関健と経験豊富な仙台フィルがサポートするからであることはいうまでもない。
《この文章は仙台国際音楽コンクールニュースレター2018年3月号に掲載されたものです》

 

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