インタビュー
シャノン・リーさんインタビュー(第7回ヴァイオリン部門最高位[第2位])
音楽評論家:松本 學
インタビュー日:2019年12月13日
「何よりもまた日本に戻って来られる機会を得られました」
“あのコンクールはあなたに何をもたらしましたか?”との質問に、第7回仙台国際音楽コンクールからちょうど半年を経た2019年12月、東京交響楽団と共演するために再来日を果たしたシャノン・リーは、こう答えてくれました。
5月のエリーザベト国際コンクールからすぐに仙台に来て、とてもご多忙だったと思います。その後はいかがですか?
少しリラックスできました。ヴァージニアでのハイフェッツ夏季国際音楽セミナーでアーティスト・イン・レジデンスとして演奏したり、かなり久し振りに香港にある父の実家に行ったりもしました。その他では10月にハイツ室内管弦楽団とドヴォルザークのロマンスとチャイコフスキーのワルツ=スケルツォを共演しました。年末にはカーネギーホールでハイメ・ラレード先生の指揮で以前メンバーだったニューヨーク・ストリング・オーケストラとチャイコフスキーのコンチェルトを弾きます*。[*現時点ではすでに終了。その後、2020 年1 月には病気でキャンセルしたリーラ・ジョゼフォウィツの代役として、ヴァーモント交響楽団でチャイコフスキーのコンチェルトのソリストも務めた。]
ハイフェッツの名前が出たので伺いますが、お好きな、あるいは尊敬するヴァイオリニストはどなたでしょう?
私の師であるデイヴィッド・ナディアン(ニューヨーク・フィル元コンサートマスター)ですね。聴くのが好きなのはジャニーヌ・ヤンセンやアマンディーヌ・ベイエなどです。個性的でありつつ、かと言って自己主張が強かったり表現過多ではなく、音楽の中にあるものをしっかりと引き出す力を持った演奏家が好きです。
日頃演奏する際の心構えや、自分でこう演奏したいというヴィジョン、理想は?
冷静かつ焦点の定まった演奏をすること。集中し他のことに気を紛らわされないというのが理想的です。
オフの時間はどう過ごされているのですか?
泳ぎに行ったり語学の勉強をしたり。ドイツ語や中国語、それに日本語も。ひらがなとカタカナが少し読めるだけですけどね(笑)。
6月にはいよいよ日本での初リサイタルが予定されています。リサイタルで共演するピアニストのジェシカ・オズボーンさんについてご紹介ください。
彼女は、前に習っていたカヴァフィアン先生に紹介されました。初めからとても相性がよくて、ニューヨークでオーディションがある時はいつも彼女に弾いてもらっていました。先日のハイフェッツ夏季国際音楽セミナーにも来てくれたんですよ。共演するためのレパートリーも沢山持っていますし、とてもエネルギッシュで、素晴らしいパーソナリティの方です。彼女自身も日本に来るのをとても楽しみにしています。
6月のリサイタルのプログラムは6曲もの華やかなラインナップですが、これはどのように?
近年演奏している中で好きなものをまとめてみました。あえてバラエティ豊かに揃えてみようと、このように並べてみたんです。順番だけは先生に相談しました。
あるインタビューで、今お好きな作曲家はシューベルトとバルトークと仰っていましたね。シューベルトのオリジナルは今度のリサイタルには入っていませんが、代わりにエルンストによるシューベルトの《魔王》に基づく大奇想曲が予定されています。この超難曲をシャノンさんはデビュー・アルバム『イントロデューシング・シャノン・リー』(TELARC)のために2007年4月に録音されていました。
そうなんです。そしてバルトークのソナタはインディアナポリスのコンクールで演奏した時の思い出の曲です。
日本からは武満さんを選んでくださっていますね。
カーティス時代にカヴァフィアン先生から紹介されました。先生は武満さんをよくご存知でしたし、彼女のために書かれた《遠い呼び声の彼方へ!》(1980)や《揺れる鏡の夜明け》(1983)を初演しています。2016年のカーティスの卒業リサイタルで何を弾こうか相談したところ、武満さんの作品はどう?と言われました。早速《悲歌》(1966)をはじめ、いろいろと録音を聴いてみました。カーティスの図書館にはカヴァフィアン先生のおかげか、かなり充実した武満作品のライブラリーがあるんですよ。その中で初期の《妖精の距離》(1951/89)に心惹かれ、この曲を演奏しました。ドビュッシーを想わせるような豊潤な音色があって、同時にとても空間性のある作品です。ジェシカとも演奏したことがある曲です。
イザイは6曲あるソナタの中で、クリックボームに献呈した第5番を選ばれています。
〈曙光〉と題された第1楽章がお気に入りなんです。イマジネーションがとても刺激される音楽で、弦が何本もあるかのごとくさまざまな音色が次々と出てきますし、イザイが生み出した緻密な絵画を描くような特別なテクニックがありますが、それを派手に見せびらかすのではないところも見事です。一方、第2楽章の〈田舎の踊り〉はとてもクールでドラスティックな踊りで、前の楽章の“日の出”と繋がって、そこから生まれた命が、最後に向かってとてもエキサイティングに展開していくところが大好きです。
最後はブラームスの第2ソナタです。
3つのソナタの中で最後に勉強したのがこの第2番でした。そして3曲の中でこれが一番好きです。温かくてフレンドリーで、そして豊か。本当に色々なものが沢山詰まっています。
シャノンさんはクラシック音楽のどこに惹かれるのでしょうか。
言語と似てさまざまな種類が存在し、多様性に富んでいる点が特に興味深いと感じます。言語を学ぶのと同じように、音楽を通じてさまざまな歴史や文化、人間性(ヒューマニティ)を知ることができるところが素晴らしいですよね。
《このインタビューの抜粋は仙台市民の文化情報誌「季刊まちりょく」vol.38(2020年3月20日発行)に掲載されました》